弐拾七時頃の空に。

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「邦雄さん…良いんですか…勝手にこんな事しちゃって…」 圭二は助手席でタバコを吹かしながら運転している邦雄に訊いた。 「良いんだよ。どうせクソ親父は理解できない」 邦雄もポケットからタバコを取り出して咥えると火を点けた。 「計算上は六尺玉を上げる事が出来る事を俺が証明してやる…」 鈴木煙火と書かれたトラックは高速道路を走っていた。 そのトラックの荷台には邦雄が作った六尺玉の花火と専用の筒だけを積み、長岡へと向かっていた。 「どいつもこいつも保守的で、新しいモノを受け入れようともしない。俺が花火の歴史を変えてやるよ…」 そう言う邦雄の横で圭二はニヤニヤと笑っていた。 「何笑ってんだよ…」 邦雄は笑う圭二を見た。 「いや、俺はそんな邦雄さんが好きっす」 邦雄は苦笑しながらドリンクホルダーに立てた缶コーヒーをすすった。 「でもこんな馬鹿デッカイ花火を見たら、びっくりするでしょうね…」 圭二は無意識に後ろを振り返り、荷台に積んだ六尺玉を見た。 もちろん見える筈もない。 「ああ、何せ、一メートル八十センチだからな…。そんなモノを空に打ち上げられると思っちゃいないだろうしな…」 「長岡の主催者に許可取れたんですか…」 圭二も甘い缶コーヒーを取り、喉を鳴らしながら飲む。 「取る訳ないだろう…。会場から少し離れたところで勝手に打ち上げる。鈴木煙火の六尺玉を世に知らしめてやるんだよ」 邦雄はそう言うと歯を見せて笑った。 「何、見たら皆が納得するよ…。夜空いっぱいに広がる、俺の作った六尺玉をな…」 二人は灰皿でタバコを消して微笑んだ。
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