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第一章 田村草太という男
少しずつ春めいてきた3月のこと。田村草太は人生三度目の失恋をした。
少し歳上でロングヘアで色白、少々気が強すぎることを除けば、
理想的な恋人であった。
「草太くんって弟みたいなのよね。恋人じゃなくて。
ずっとこのままの関係でいましょう」
いろんなものを買ってあげたり、いろんなところに連れて行ったり。
草太なりに尽くしてきた。それなのに。
恋人思っていたのは、草太だけであったらしい。
「なんで僕っていつも、「弟扱い」なわけ?」
今夜は居酒屋でやけ酒と決め込み、同僚に愚痴をこぼす。
「ぶぇっくしゅ! あーくそ、鼻水止まんねぇ」
季節は草太を甘やかしてくれない。花粉症である。
鼻水と共に涙も止まらない。もはや悲しくて泣いているのか、
憎き花粉による攻撃なのかさえ、わからない。
「汚えなぁ。ホラよ、ティッシュ。恵んでやる。ありがたく思え」
「そりゃ、どーも。ありがたくて涙出てくるよ」
「って、もう泣いてんじゃねぇか」
せせら笑いながらポケットティッシュを差し出してくれたのは、
同僚の上木倫太郎だ。所持していたポケットティッシュはとうに
底をつき、お情けとはいえ貰えるティッシュはありがたい。
「しっかし、お前も因果な体質だねぇ。好きになるのは歳上の
きれいなお姉さん系。なのに、お前ときたら見た目は童顔、
中身も素直な子犬系。女から見たら典型的な「弟くん」だもんな」
「中身は子犬系は余計だ」
「でもモトカノには子供扱いされてきたんだろ?」
「…………」
反論できないところが、なんとも情けない。
「女は歳下がいいぜ。可愛いし若いし、いうことねぇ」
「それはおまえの好みだろ。俺は違うの」
「はいはい、『きれいなお姉さん』が好きなんだよな。
でも『永遠の弟属性』の草太は毎回フラれるときた。
いーね、わかりやすいわ。おまえ」
「勝手なあだ名つけんな。なんだよ、『永遠の弟属性』って」
と言いながらも、うまいことをいうな、
と少しだけ感心してしまう。
「僕だって、ちゃんと男扱いされたいよ……」
しみじみと呟いた。このまま失恋を繰り返すだけなのだろうか。
「ハァ……。はっ、はっ、ふぇーくっしょん!」
どこまでもシリアスになりきれない男、田村草太であった。
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