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秋になると鮮やかに紅く染まる七竈の木も、今はただの木だ。
校庭の隅にあるそれを槻田は黙って見つめていた。
少し風が強くなってきた。
七竈は、吹きつける夜風に重そうなほど葉のついた枝を揺らしている。
ふと、槻田は何かの気配を感じ、振り向いた。
図書室に灯りがついている。
ゆらゆらとした光の中、窓際に立つ人影が、なんだか七月のような気がした。
肩までの髪に少し天然が入っているようなシルエットだからか。
『お前の相手をしている暇がなくなった』
時折、あの日のことを思い出す。
少し困ったような顔で自分を見上げていた七月の目。
ああいう性格だから、文句を言ったりはしなかったが。
それにしても、
『あ、そう――』
は、ないだろう?
自分が振っておいて、そんなことを思う。
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