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ラブストーリーは唐突に?
春の朝、窓からやわらかな陽射しが注ぎ小鳥のさえずりが優しく俺の目覚めを誘う。
そんな環境ならどれだけ気持ちいい目覚めだっただろう。
現実は窓の外から通勤ラッシュの車のクラクションの音や通学途中の小学生の叫び声、ゴミ捨て場でエサを荒らすカラスの声ご俺の目覚まし時計だ。
しかし珍しい夢だった。
いつもは心配そうに見つめるだけの鮎美が今朝は笑っていた。
初めてのことだった。
珍しい事もあるものだと軽く朝飯を食べて身支度を整えて職場へ向かう。
東京某所、住宅街のほどなく近くにあるイタリアンレストラン「サジッタ-トリコロール」
オープンキッチンを採用していて客席からコックが調理しているところを見れる事もあり、ランチタイムには近隣の女性客で賑わうなかなかの繁盛店だ。
宮川正太、22才。
調理の専門学校を出た俺はこの店で3度目の春を迎えた。
その日も戦場のようなランチタイムを終え、スタッフの賄い作りに取り掛かった。
正直、ランチピークを終えて疲れている所にスタッフのメシを作るのはしんどい作業なのだが、先輩達やシェフに自分の腕を見てもらえる機会でもあるので意外と手を抜けない。
約一名を除いて‥
今日もフォークでテーブルを打ち鳴らし俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ねぇ〜正太くん!あたしのゴハンまだ〜〜⁈」
「うるせー!今できたとこだよ!それと「正太くん」じゃなくて「宮川さん」だろ?」
「え〜だって正太くんは正太くんじゃん!堅苦しい事言わないでよ!せっかくのゴハンが美味しくなくなるじゃない(>_<)」
やかましくも厚かましいこの娘は藤本雪乃21才。ホール2年目のスタッフだ。
後輩かつ年下のクセして俺のことをまるで友達のごとく「正太くん」呼ばわりするこの娘は、悲しい事になかなかの美人でお客の中でファンクラブまであるという噂だ。
何が悲しいかと言うと、やかましい&厚かましい上に「プラス」 可愛くて人懐っこいから憎めないのだ。
どんな憎まれ口聞かれてもついつい許してしまう。
「ほらよ、アマトリチャーナできたよ!」
「やった〜!さすが正太くん、今日のあたしの気分を良く分かってるね💓」
「いいからさっさと食ってディナーの準備しろよ。」
「食べてる時に仕事の話はナシ!せっかく正太くんがあたしの事を想って作ってくれたゴハンなんだから♩」
「誰もお前の事なんか想っとらんわ」
「またまた照れちゃって〜💓いただきます、ダーリン💓」
「誰がダーリンやねん!」
全てがこんな感じの生意気な後輩だが、俺はこの娘とのやりとりは嫌いではなかった。
「そういえばさ〜最近、正太くん女性のお客さんから人気あるの気づいてる?」
パスタを食べ終わった雪乃が唐突に聞いてきた。
俺も自分の賄いを食べながら答えた。
「いや、全然。」
「客席から厨房を見て、結構聞かれるんだよ〜あの人の料理はどのオーダーなら食べれるかとか〜あの人彼女いるんですか〜とか^_^」
そんな事になってるとは全然知らなかった‥
「へぇ、んでお前は何て答えてんの?」
「‥‥」
なんかやな予感がする。
「何て言ってんだよ?」
「‥‥聞きたい?(〃ω〃)」
「聞かせろよ。」
俺はやや食い気味のタイミングで答えを求めた。
「‥‥怒らない?(*'ω'*)」
「時と場合による。」
「‥‥んじゃ言わな‥
「怒らないから言え」
「ホント?」
「‥‥ホント」
「ホントにホント?」
「しつこいぞ。」
「驚かない?」
「どんなサプライズ繰り出す気だ?」
「じゃあしょうがないなぁ‥」
少しの沈黙の後、雪乃が発した言葉は‥
「あたしの彼氏ですって(*´꒳`*)」
「何?!」
「そろそろ一緒に住もうかと思ってるって\(//∇//)\」
「‥‥???」
「将来は二人でお店だそうって話あってるって💓」
静かに、確実に怒りのメーターが振り切れていき‥
そしてその時は訪れた。
「何言うとるんじゃコラ〜〜!!」
「怒らないって言ったじゃーん!!」
「怒るわボケ!!」
「ウソつき〜!!」
「どっちがウソつきだ!」
「大体なんでそんなウソつくんだよ?!」
「‥‥言ってもいいの?」
「いいともさ。」
「ホントにホントのこと言っていい?」
「しつこい!いいから話せ。」
「‥‥好きだから」
「‥‥え?」
怒りのメーターが振り切れていたはずが急に通常に戻った。
そうさせるほどその一言を言った雪乃の表情は真剣だったのだ。
少なくとも俺にはそう見えた。
「えっと‥それはどういう‥」
「そのまんまの意味。私は正太くんが好きってこと。」
「またまた〜そうやって俺をからかってんだろ?」
「本気なんだけど」
「でもなんで俺なんて‥お前ならいくらでも男作れるだろ?」
出来るだけ平静を装ったつもりだがおそらく動揺してるのは丸分かりだだっただろう。
おそらく俺よりは平静な雪乃はたたみかけてくる。
「そんなのあたしの自由じゃん!そしてあたしは正太くんが好きなの。
‥‥マジだからね?」
情け無いことに俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「流れと勢いで今告るとは思ってなかったけどね(笑)でも、言ったからにはもう遠慮はしないから。」
「でも俺は‥」
「知ってるよ?昔の彼女さんが忘れられないんでしょ?」
俺は雪乃の目を見れなくなり思わず視線を床にそらしてしまった。
「大丈夫!絶対あたしの事好きになるから^_^さっさと覚悟決めてあたしと付き合った方がいいよ💓」
「‥‥」
「んじゃ、今日のところはこれくらいでね(笑)仕事仕事っと〜♩」
突然の告白をしたにもかかわらず雪乃はサバサバした様子で仕事に戻っていった。
された側の俺はその日、雪乃と目が合ってもまともに目を見る事が出来ずに仕事でもミスってしまいいつもの3倍は疲れて1日を終えることになった。
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