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時間にすればものの一分だったと思う。ただし、人生で最も長い一分。
心臓が汗をかくほど、切羽詰まる中、ようやく風呂場に戻ってきた。
台に乗り、蓋を外して急いでブレーカーを操作する。
手元が落ち着かず、やり方がわからなくなる。
数分格闘して、なんとかスイッチを入れ直し、文明の火を取り戻した。
パッと明るくなる脱衣所に、目が一瞬眩む。
すぐに目が慣れ、これで一安心、そう思った。
視界に飛び込んできたのは、薄っぺらい、大量の人の顔。
こちらを見つめ、笑ったり怒ったり泣いたり哀れんでいる老若男女の顔。
床から壁、天井までびっしりと張り付いている。
何者かに引き剥がされた、生きた面の”皮”。
それが何枚も覆い被さり、ぐねぐねとひしめき合う。
暗がりで目を光らせていた正体がわかり、僕は気を失った。
目覚めたとき、脱衣所は元通りだった。
あの後、すぐに工事をしてブレーカーは落ちなくなった。
皮の顔は、もう見ていない。
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