徘徊師匠

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先生は煙草を足元に落とし、草履の先で踏んで火を消しました。 「面倒を見るという事はこういう事なんだよって母は私に教えてくれたんです。その後、その犬はうちの庭で飼っていましたが…」 先生は優しい顔で私を見ます。 「半年もしない内に死んでしまって…。生き物が亡くなるって悲しいじゃないですか…。だから、その日私は生き物は飼わないって決めたんです。そう決めたんですけど…。私はやっぱり犬が好きなんですね…。こうやって捨てられた犬を見ると放っておけないんですよね…」 私は先生の温かさを感じました。 特定の女性が出来たなどと考えていた自分が愚かに見えました。 シズカは先生の手をペロペロと舐めていました。 相当先生に懐いているのでしょう。 「今でも悲しいんでしょうね…このシズカが死んじゃうと…。そう思うと飼えないんですよね…」 私は先生の横顔に微笑みました。 「先生…」 私はベンチから立ち上がると尻を払いました。 「何ですか、要君」 先生も立ち上がられました。
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