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「それではテープカットをお願いします。」
カシャカシャと広報部のシャッター音が鳴る中、正面玄関に集まった招待客やスタッフが一斉に拍手をした。
「ありがとうございます。それではこの後、記者会見を行いますので、皆さまどうぞ中へ。」
痛む頭を堪え、精一杯の笑顔を浮かべる。
今朝、奇跡的に忘れていなかったアラームで起こされ、念入りにシャワーを浴び水分をとったが、二日酔いが改善されることはなかった。
それでも無事オープニングも中盤まで進み、もう少ししたらなんとか座ることができるだろう。
「河合さん、お疲れ様です!」
「ああ、なっちゃん。社長はどう?」
「いつも通り、バッチリです。」
「そうか。良かった。」
ゾロゾロと客が中に移動するのを眺め、あと少しだと自分に言い聞かせる。
「河合さんもそろそろ行かないとですね。」
「うん。」
社長専任秘書の夏目と別れて、スタッフがセッティングした演説台に向かう。置いてある資料を手にし、不意に昨夜の彼の声が頭をよぎった。
『ーーまた明日。』
また明日?
この声は、夢の中だっただろうか。
それにしては妙にハッキリと聞こえた。
いや、気のせいだろう。いくらなんでもお互い本名も連絡先も知らない同士。会えるとしたらあのホテルのロビーくらいなものだ。
そのチャンスもすでに終わった。
「それでは記者会見を始めさせていただきます。まず、代表取締役 朝……」
ーー視界ギリギリ、目が合った。
まさか?!
いるはずのない人物を目にして、思わず台詞が詰まる。
そこには昨日、酒を酌み交わした髪を一つに括った男がスーツ姿でロビーに立っていた。
面白そうに、ニヤリと口唇を片方だけ上げて。
まさか、こんなところにーー?
ガコッ、とマイクの音がして我に返った。
しまった、司会進行中……!
「失礼致しました。改めまして……」
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