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部屋に荷物を置き、ジャケットとネクタイをハンガーに掛ける。
それから明日のスーツをカバーから外して、へんなシワができてないか確認する。……問題ない。ネクタイはこのシーズンに合わせて、光沢のあるスカイブルー。
うん、大丈夫。
明日は久しぶりの司会だから、間違えないようにもう一度資料を読み込んでおかないと。
ぐー……。
その前に腹ごしらえだ。
既に閑散となったフロントで紹介してもらった近くの小料理屋へ入ると、狭い店内は満席に見えた。
「いらっしゃいませー。1名様ですか?」
「はい。いっぱいですか?」
「カウンターで良ければ大丈夫ですよ。」
若い男性店員に示された先を見て、あ、と声が漏れそうになったのを堪えた。
そこにはフロントですれ違った、あの髪を一括りに縛った男が座っていた。
こっちの視線に気付いて、チラリと視線が流れてきた。……ゾクリとするような、鋭い目だった。
ここで回れして店を出るのもおかしいだろう。
「……隣、失礼します。」
「ああ。」
手渡されたおしぼりを受け取りながら、とりあえずビールを頼む。
「ホラ。」
「えっ、ああ……。すみません。」
不意に隣からメニューを渡されて、思わず怯む。見れば男もお通しらしき小鉢をアテにビールを飲んでいる。
メニューに目を通しながら、どこか落ち着かない気持ちになる。理由は分かっている。ーー隣からの視線だ。
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