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「生お待たせしましたー。」
気まずい空気を切り開くような明るい声に助けられ、メニューからいくつかオーダーする。
そして、届いたばかりのビールを一気に半分くらいまで呷る。旨い。
一緒に届いた小鉢には、蓮根のきんぴらがちょこんと入っていて、ちょっと嬉しくなる。
「……旨そうに食うな。」
突然かけられた言葉に箸が止まる。
チラリと左を伺えば、先程の鋭さを潜めた黒い切れ長の目がどこか楽しそうにこっちを見ていた。
「はは……。」
愛想笑いを返して、これ以上話しかけられないようにタブレットを開く。
「仕事?」
……相手にこの常識は伝わらなかったらしい。
仕方なく「ええ」とうなづけば、ヒョイと片眉上げて「へえ」と笑った。
よく見れば精悍な、男らしい顔つきをしている。鼻筋が高くがっしりとした、ハーフじみた容貌。眉と目の間隔が狭いからそう見えるのかもしれない。そのくせ瞳は闇のように黒い。
「メシ食うときくらい、仕事忘れればいいのに。」
「そうですね。そうできれば。」
当たり障りなく受け答えして、それでも心の底で『失敗した』という感情が拭えない。
なんでこの店を選んでしまったのか。
「できるだろ。」
え、と思う間も無く横から伸びてきた手がホームボタンを押した。
「な……」
「ボタン1つの話だ。」
本当に、なんで勧められるがままにこの店を選んでしまったのか。オーダーも通したまま、今さら帰るのもさすがに大人気ないような気がする。
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