73人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「旅は道連れ世は情けって言うぜ?」
しれっと言い放った言い放った男に、これ以上は無理そうだと降参した。
ふう、とため息をひとつ。そしてパタンとタブレットケースを閉じた。
「私は旅ではなく、仕事ですけどね。」
「それはオレも同じだ。」
ちょうどそのタイミングで店員が料理を運んでくる。香ばしい肉の焼けた匂い。
「和牛の西京焼きとアスパラの煮浸しです。」
「お、来たな。」
嬉しそうに男が眉を下げる。そんな表情をすると、途端に若くなった。もしかして、年下なのかもしれない。
「アンタも食えよ。」
「え、いえ……」
まるで旧知の仲のように料理を勧められ思わず怯んだ。これ以上なあなあになるつもりはない。
「自家製ざる豆腐お待たせしました。」
「その代わり、俺も豆腐食う。」
「は?!」
潔癖症とまでは言わないが、あまり同じ食べ物を突き合うのが得意なほうではない。
それをいきなり初対面の人間とシェアして食べる?
ーーいや、無理だろ?
「和牛、熱いうちに食わないと旨いもんも旨くなくなる。ホラ!」
自分の箸で俺の皿に二切れ、投げ込むように小皿に入れられる。
「早く食え!」
これは土方の洗礼か?
仕方なく、えいやっとばかりに一切れの肉を口に放り込む。
最初のコメントを投稿しよう!