Mother

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Mother

 僕の母はいわゆる専業主婦だった。だから小学校から帰ると、いつも母がいる。それが僕にとって当たり前だったし、それ以外の状況など考えることもできなかった。  もっとも、あの当時は、働いている女性の方が少なかった。僕の友人の母も、大抵は専業主婦で、夕方になると近くの公園やなんかで、よく井戸端会議が開かれていた。  僕の母はもともと大手商社で働いていたが、結婚を機に仕事を辞めた。いまでは死語になってしまった寿退社(ことぶきたいしゃ)というやつだ。だけどその当時は、結婚したら女性は家庭に入るという考え方が主流だったし、母も仕事を辞めることに抵抗はなかったらしい。  そんな母は、毎日三時になると手作りのおやつを用意してくれた。それはプリンだったり、ケーキだったり、大福だったりした。母は料理やお菓子作りが好きな人だったし、その技術もそれなりに高かったと思う。それでも、その当時の僕は、たまには友人と同じように店で買った駄菓子を食べたいと思っていた。今になって考えてみれば、ずいぶん贅沢な話だ。  そんな僕も、気がつけば四十歳になった。この歳になるまで、本当にあっという間だったと思う。今ではこんな僕も結婚して、子供も二人いる。一人は小学四年生で、もうひとりは小学二年生だ。二人とも元気な男の子で、家の中はいつも賑やかしい。
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