金曜日に君が居る。

1/6
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

金曜日に君が居る。

 本当に自分、出来損ないすぎて笑える。  私はふらつきそうになる足をどうにか踏ん張って、駅へ続く道を歩いていた。  コールセンターの仕事が、大変であることなどちゃんと分かっていたのだ。でもまさか、研修もそこそにいきなり本番に駆り出された挙句、こんな派手な雷を落とされることになるなどとどうして想像することができるだろう。 『あなたのせいでね、クレームにならなくてもいい問い合わせがクレームになっちゃったの。それはちゃんと自覚してくれないと困るわ』  チーフは眉を跳ね上げて、私を叱った。確かに、あの玩具の動作がよくわからず、手元でアタフタしてしまったのは事実ではある。女の子用の玩具で、組み立てれば屋根の上に乗せたボールが落ちていき、最後は一番下の穴にすっぽりハマるようにできているツリーハウス型の玩具だった。うまくボールが穴に落ちないんだがこれは仕様なのか?という問い合わせ。私は手元の見本を使って試したが、実際見本でもボールは三回中一回しか穴に落ちることがなく――。  結果、私は言ってしまったのである。落ちないことがあるのは仕様です、と。 ――でもさ。誰も助けてくれなかったじゃない。困った時はいつでも回してね、なんて言ってたくせに。  じわり、と涙が滲んでくる。問い合わせしてきたのは、誕生日プレゼントに孫にツリーハウスを買った祖母だった。仕様と聞いて、つまり商品自体が欠陥品なんじゃないかと彼女を怒らせてしまったのである。  電話の保留時間は、一定時間を超えてはいけないという規則がある。試しているうちに保留の時間を超えてしまいそうになり焦ってしまったのは間違いない。だからどうすればいいか、チーフや先輩達に聞こうとしたのだが、全員が運悪く通話中。パニックになりかけていた私は、とりあえず折り返せばいいという選択肢を思いつくことができず――結果お客様の機嫌を損ね、チーフをかんかんに怒らせることになってしまったのだった。 ――パニクったのが悪いのはわかってるよ。でも、私まだ今日初めて電話取ったばっかりで、うまくいかないことなんてたくさんあるの目に見えてるのに……。  お客様にとって、電話先のスタッフが研修生であるかそうでないかなど関係ないことはわかっている。でも。  派遣社員だというのに、タイムカードを切った後でああも長々とガミガミ叱ることはないではないか。 ――他の子達は、ちゃんとできてるっぽかったな。あんな失敗したの、私だけだった。……いつもそう。本番になると何をやっても緊張して、どもって、失敗して、頭真っ白になってさ。……こんな出来損ないのヤツ、きっと私だけなんだろうな。だから新卒なのに正社員でどこにも雇って貰えなかったんだ。  派遣社員は、即戦力しか要求されない。嫌な思いをするであろうことは想像していたものの、だからといって正社員に合格できるまで無職というわけにもいかない。いくら実家通いだからといって、自分の食い扶持くらいは自分で稼げるようにならなければいけないことくらいわかっているのだ。  頑張らないといけない。そう思う心と、どう頑張ればいいのかわからないというジレンマ。学生時代から、人間関係その他でトラブルばかり起こしてきた私だった。こんな人間、生きていたって何の意味があるだろうか。恋人もいないから、結婚して専業主婦に!なんてのも夢のまた夢。というより、専業主婦になったところで家事が下手糞すぎる嫁など誰も欲しくないに違いない。ただでさえ、容姿にも自信がないというのに。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!