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店の片付け作業をしている時、母さんにロランドさんと何を話したのか聞いた。ロランドさんは、母さんの事が昔好きだった、とついに言ったらしい。しかし、その時言わなかったのは、ロランドさんの妹・アネットさんが、母さんの事を好きだと言うことを知っていたからだと。
母さんは、その事は分かっていた、と言った。でも、母さんは既に父さんの事が好きで、答えられないことを知っていたから、気付いていない振りをしていたんだそうだ。
その時母さんに、俺がマリィを好きなこと、マリィも俺を好きでいてくれていることを話した。母さんは最初からバレバレだったと言う。マリィの方の好意も。
結構勇気を出して言ったのに拍子抜けするけど、母さんが理解ある人で良かったと安堵した。
「っ、ちょっと、マリィ今日は……」
マリィは仕事を終えて俺の家に泊まりに来ていた。一緒のベッドに入ったら、すぐに俺の服を脱がそうとしてきたので慌てて止める。隣の部屋ではないとは言え、同じ階に母さんが寝ているので、可笑しなことはできない。
「エメが声我慢したらいい」
「そういう問題じゃない……!」
俺はマリィの頭を軽く叩いた。今バレなくても、明日の朝、明らかに調子の悪い俺を見たら勘付かれるに決まっている。
「じゃあキスは?」
「……いいよ」
ちゅ、と軽く触れるだけのキスをしてマリィは満足したように、何だか幸せそうな笑顔になる。そして俺を抱き締めながら頬をすり寄せて、
「エメ好き、愛してる、ずっと」
と囁いた。耳元で言われたせいで、背筋がぞくぞくした。
「うん、俺も愛してる……マリアン」
今まで呼ばなかった彼の名前を呼んだ。マリィが俺を真っ直ぐに見詰めながら、蕾が花開くように朗らかな笑顔を見せた。
この小さな港町の片隅で、俺達は出会い、恋をした。この恋を愛に変えて、ゆっくりと育んでいけたら、とそんなことを思う。
恋人の体温を感じながら、幸福に身を浸すように、ゆっくりと瞼を閉じた。
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