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暴かれた夜
「殺してやるって、言ったんだ」
マリィの曇りも淀みも無い蒼海を思わせる瞳が怖かった。震えながら負け犬のように吠えるしかない俺を見下すでも、だからって慈しむでもないような、感情を読み取ることが出来ない眼差しをただ真っ直ぐに向けている。
衣服を何一つ身に纏っていない彼を殺すのは、調理場の冷蔵庫にいる魚の首を刎ねるよりも簡単なことだが、しかし俺も同じく無防備に裸体である上、身体を動かすだけで痛みを伴う。だから、ベッドに蹲っているしかない今の状態では、調理場に包丁を取りに行くことすら叶わないのだけど。
彼の小さな古傷が目立つ白く細い指が俺の顔に伸ばされ、反射的にその手を払った。一瞬固まったマリィは不思議そうに、どうして、という顔をしている。俺の中で静かに揺らめいていた炎がじりじりと身体の内側を焼き、憎悪となって膨らんでいく。
「お前が俺に何したか分かっていて、そんな風に触るのか」
「……涙、拭いたくて」
「優しいふりをするなよ。お前は嫌がる俺を女みたいに扱ったんだぞ。お前なんか獣だ。明日にでも殺してやる、本気だぞ。遺書を書いておくか、見つからないように逃げ出すんだな」
ずきずきと痛む下半身とどうすることもできない射精後の倦怠感に苛まれても、脳味噌と口にはまだ毒を吐く元気があって良かったと思う。
払われた手でマリィはぼりぼりと頭を掻いた。と、次の瞬間には彼の顔が近づいてきて、そう気付いた時には遅かった。乾いた薄い唇が口を半開きにしたままの俺の唇と重なっていた。
ぬるりとした生温い舌が口内を制圧して、俺の舌を絡め取る。抵抗しようとマリィを押し退けようとしたが、逆にその手を取られて押し倒されてしまう。
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