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「きゃあ、見た? 今の笑顔! 素敵っ」
突然奥の方の席から女性の黄色い声が飛んできたので、びっくりしてそちらを見る。女の人がマリィをちらちら見ながら女友達とひそひそ話をしていた。
「マリィ、モテるでしょう。彼女はいないの?」
その様子を見てか、母さんが興味津々の様子で聞く。仕事中だっていうのに迷惑だろう、と思うけれど、内心聞いてみたい気持ちがあったからか、何も言わなかった。
「今まで居たこともないよ。興味が無くて」
「……ですって。うちの子も居たことないのよ。この子の場合はモテないからだけど」
「よ、余計なこと言うなよ!」
マリィが何を考えているのか分からない眼でこちらを見てくる。モテるとかモテないとか関係なく、彼女いない歴は同じじゃないかって言いたい、けどその反論が恥ずかしいので言えない。
「マリィ! こっちのお客さんの会計頼む!」
厨房からロランドさんの声が飛ぶ。レジの前に中年男性が一人立っている。マリィはすたすたとそこに歩いていって、慣れた様子でレジを打った。
「冷めちゃうわね。さ、食べましょ」
俺達は簡易なお祈りをしてから、ブイヤベースに手を付けた。濃厚な魚介の味が詰まった美味しいスープ。身のしっかりした金目鯛を口に運ぶとほろほろと崩れて美味しい。
「美味しいわ。ロランドさんに負けないくらいね」
「うん、味が上品な感じだね。リヨンで修業してたって話を聞いたから、だからかも」
ロランドさんの豪快な料理も美味しいけど、マリィの繊細な味付けもいい。すぐにこの店の客にも受け入れられるだろう。
「たまに奮発して食べに来てみるものね。あとで褒めておかないと」
忙しく接客を始めたマリィの姿を目で追う。まるで前からここで働いていたかのように馴染んでいるのは、ロランドさんがお客さんが来る度に説明してくれているからっていうのもあるけど、彼の特別な容姿がこの町の人達を魅了しているからかもしれない。
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