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食事を終えて、会計は昼食の時間が終わって一段落した様子のロランドさんがやってくれた。
「マリィの料理美味しかったわ。褒めておいてあげてくださいな」
「言っておきますよ。リディさんに満足してもらえて良かった」
お金を払って店を出る時だった。突然腕を掴まれて驚いて振り返った。マリィがまた読めない表情で立っていた。
「母さん先に車のところに行ってるからね」
そう言って、母さんは坂道を上っていく。俺は訝しがりながら、彼を真っ直ぐに見上げた。笑っていないと、本当に人形みたいだ。
「エメ、仲良くしてくれる?」
「それって……友達になってってこと?」
こくりと頷く。その様がまるで子供みたいだったので、俺はつい噴き出してしまった。
「こちらこそよろしく! あ、言っとくけど、この街で二十前半は俺とお前だけだからな」
それを聞いたマリィが長い睫をぱちぱちと上下させて、ぼそりと「僕、十九」と言う。同い年と勝手に思っていたけど、俺より二つ年下だった。
「ま、まあ、俺の方が年上だけど、仲良くしようぜ」
軽くマリィの肩を叩きながら、苦笑いする。
「うん、ありがと」
マリィは長い金色の睫をきらきらと輝かせながら、目を細めてにこっと笑った。また、胸が、痛い。苦しい。どうして、こんな風になるんだ。これって何かの病気?
ごくんと唾を飲み込んで、俺は無理に笑って「じゃあまた」と手を振って坂を駆け上がった。
「何の話だったの?」
車に乗り込みシートベルトを締めてエンジンを掛ける。助手席の母さんが、俺の顔を見てまたくすくす笑う。多分顔が赤いんだろう。
「……なんでも。友達になってくれって」
「まあ、よかったわね! 今度家に連れていらっしゃいよ。母さん頑張って料理作るわよ。プロに美味しいって言わせたいわ」
勝手に盛り上がる母さんに呆気にとられながら、俺はゆっくりと車を発進させる。ぼんやりとマリィを家に呼んだら、何しようかな、と考える。たまに映画を見たり、たまにサッカー観戦する程度で無趣味だから、何をしたらいいやら。でも何となく、楽しそうだなあと思う。
「……まあ、誘ってみるよ」
俺の家に呼んだら、今度はマリィの家に行きたい。ロランドさんのところか、他にアパートに住んでいるのか分からないけど。泊まったり、泊まりにきたり。ロランドさんもうちにご飯食べに来たりして。
考えるだけで楽しそうだった。そんな風に遊べる数少ない友達はリセを卒業以来皆大学に行ったり、都会に就職したりしていなくなってしまった。久しぶりに友達が出来て、正直少し、浮かれた。
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