魚屋と港町のレストラン

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 それからマリィとは毎日顔を合わせた。朝魚を届ける時に、軽くおしゃべりする程度だけど。  話しながら、色々マリィについて分かったことがある。マリィは店の二階の物置を少し整理してできた小さな四畳の部屋で生活しているらしい。こっちに来た時に荷物は衣類が少しあるくらいで、ベッドだけあれば事足りるから不便はしていないらしい。シャワーは無いから、朝ロランドさんのアパートに借りに行ったり、一階の洗面台で簡易的に浴びているのだとか。ロランドさんが今二階にシャワー室を作れるかどうか、土建屋に聞いているところだそうだ。  リヨンでは高校からレストランの厨房で働いていて、卒業後一年一ツ星のレストランで修業したらしい。母親が亡くなってロランドさんのところに行くことになって、料理長は残念がったそうだ。バイト三年と修業一年でこれだけ上手いのだから、惜しい人材だったんだと思う。  しかし、それ以上の突っ込んだ話はしなかった。元々口数が少なく、俺が聞いたことしか話さないから、余計に聞き辛かったし、母親の死因とか、家族のことについては、決して簡単に触れられるものではなかった。  特別朝のおしゃべり以外の事はしないまま、しばらく経った頃――マリィは店が夜九時まであって忙しいし、俺は朝が早いから夜は遊べないせいもある――、母さんが食べに行ってきたらと言うので、昼過ぎに店に向かった。
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