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「……今度、ご飯作るから家来て」
「え?」
パンをシチューにつけて食べているところで、顔を上げる。相変わらず読めない無表情でこっちを見ていた。
「泊まりに、来て」
彼の眼に釘付けにされる。瞳の中の深い深い蒼に吸い込まれそうになる。一瞬呼吸が止まる。ゆっくりと息を吐き出しながら、脈と呼吸のリズムを整えようとする。
「……いいけど」
自分でもびっくりするくらいぶっきらぼうに答える。
なかなか俺から誘うのも忙しいかと思って遠慮していたけれど、もしかして充分に話す時間が欲しいとか、そう思ったのかなって考えたら、正直嬉しい。嬉しいけど、それを思いっきり顔や態度に表すのも気恥ずかしい。というか、二十一にもなって同性の友達との遊ぶ約束を取り付けて大喜びするのも可笑しい。それで、自分を抑えたら、妙に素っ気ない言い方になってしまった。
「いつ、来る?」
「母さんに聞いてみないと分からない。店休むか、魚の買い付け手伝ってくれる人探して頼まなきゃいけないから」
店を休むのは毎日の魚の配達がある分難しい。手伝ってくれる人の当てもないから、すぐに決めるのは難しいと思えた。
「それなら、俺が行こうか」
驚いて声の主を確かめると、ロランドさんがいつからいたのかテーブルの横に立っていた。
「自分でその日一番の魚を買い付けるのも楽しそうだし、リディさんに話したいことがあるから、ちょうどいい」
話したい事って? 母さんが初恋だったって言うつもりなのか? まさか父さんが亡くなったからってプロポーズしたりはしないよな? ……なんて勘繰ってしまうが、あえてその内容については突っ込まないことにした。言わないってことは、俺達には聞かれたくないことなんだろうと思ったから。
「ロランドさんの都合は?」
「明後日の朝なら大丈夫だろう。前日シチューの仕込みしておけば支障はないしな」
「じゃあ今日帰って母さんに話してみる。明日泊まりでもいいかって」
ちらとマリィを見ると、特に嬉しそうでもなく呆けた顔で俺とロランドさんのやりとりを眺めていた。
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