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「……どうした?」
何か言おうと口を開いたけど、そのまま閉じて「何でもない」と言うようにふるふると頭を振った。
「言いたい事あるなら、言ってくれよ。今日の夜でも良いけど、今言おうと思ったのなら、さ」
だけど、マリィは俯いたまま頭を振って、掴んでいたシャツの裾を脱力するようにそっと離した。
「マリィって子供みたいだなあ」
いやいやする子供みたいな仕草に、俺は苦笑しながら、軽く背伸びをしてその頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「仕事頑張れ。そしたら、夜いっぱい話しよう。な?」
顔を上げたマリィが目を細めてにこっと笑ったので、なんとなくこっちも嬉しくなって、笑顔を返した。
「ワイン、一本空けていいって、伯父さんが」
「ロランドさん気が利くなあ! じゃ念のために、歩いてこなきゃな」
さっき言おうとしてたのはこのことを伝えようとしたのかな、と思ったけど、それなら言い淀む必要はない。何か違うことだったと思うけど、本人が言いたがらないのに、無理に追及するのもどうかと思うのでやめた。
「もう行かないと。母さんが店で待ってるから」
「……うん」
無表情だし普通に立っているだけなのに、何故か捨てられた犬みたいな感じに見えるのが不思議だ。俺が何だか気まずさを感じているからか、まだ話していたいと思う気持ちがあるからなのか、俺の感情が少なくとも反映されているのかなと思う。
「エメにご飯作って待ってる」
「うん、ありがとう! 楽しみにしてる!」
「じゃあ」と今度こそ手を振って店の脇の坂を上る。振り返ると、マリィが笑って手を小さく振っていた。
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