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車に乗り込んで帰路を急ぐ。急ぐ必要もないのに気が急いているみたいで、スピードがいつもより出ているのに気付き、安全運転、と心の中で呟いて減速する。
早く店に帰っても、時間が先に進んでくれるわけじゃないのに。そんなに楽しみにしているなんてちょっと可笑しい。
店に着いて母さんの手伝いを始めても、そわそわして落ち着かず、店の締め作業も明日の注文のまとめも、夜の事ばかり考えて何度か失敗したり間違ったりして、それを見て母さんに笑われた。
「行ってくる!」
着替えの服はどうせ朝風呂入るからその時着替えれば大丈夫だろうってことで、財布以外何も持たず家を出た。後ろから「夜道気を付けてね」と声を掛けられ、手を挙げて返事をした。
夜家の近くを歩き回ることはあまりない。街灯の数も人通りも少ないから、稀にひったくりが出るらしい。田舎だから大体この町の人達のことは知れていて、お金に困っている人や前科がある人、最近越してきた人、泊り客辺りが犯人で、すぐに捕まって解決してしまうのだが。
昼間とは景色の違う薄暗い路地を二十分くらい歩いてロランドさんの店に着く。出入り口を覗くとちょうどマリィが最後のお客さんの会計をしているところだった。
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