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「おお、エメ、早かったな。中に入って待ってろ」
ロランドさんに声を掛けられ、いそいそと店内に入る。テーブルの上の皿をまとめて運んでいく彼の後ろについて厨房に足を踏み入れだ。
「皿洗い手伝うよ。明日の買い付け手伝ってくれる代わりに……なるかわからないけど」
「はは、気にしなくてもいいのに、律儀な奴だな。じゃあ、そこに浸けてあるやつ頼むよ」
「うん」
シンクに溜まった食器を置いてあったスポンジで洗う。夜も繁盛したようで、凄い量の皿があった。
「エメ、俺が」
会計を終えてマリィが厨房に入ってきて、隣に立つ。
「マリィ、こっちはエメがやってくれるから、お前はフロアの床掃除だ」
マリィは俺の顔をじっと見てからこくりと頷くと、厨房の奥からモップとほうきを取り出して出て行った。
「大変だね、毎日。こんだけの量の皿洗うの」
「まあな。でもマリィが来てくれてから楽になったよ。根が素直だし、料理の腕もいい。本当に助かってる」
そうか、今まではこの量の仕事を一人で熟してきたんだ。そう考えると、ロランドさんの苦労は計り知れない。
皿を洗いながらマリィに目を遣ると、黙々と掃き掃除に勤しんでいた。
「まあ、あんまりにも普通にしてるから、色々溜めこんでやしないかって、ちょっと心配でもあるんだがな」
ロランドさんは気遣わしげな視線を彼に向けていた。そうか、彼は母親を亡くしたばかりで、本当は塞ぎ込んでしまっていても可笑しくない状況のはずなのだ。あの無表情の裏に、辛さを隠しているんじゃないだろうか。
そんなことをぼんやり考えていたら手元が狂って危うく床に皿を落としてしまうところだった。
皿洗いや掃除をしている間にロランドさんは、レジ締めや冷蔵庫のチェック、明日の昼食メニューを立てたりして、一通り仕事を済ましていた。
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