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「このワイン好きなんだよな。葡萄の味がして甘いから飲みやすいし」
気付くとマリィが俺のグラスにワインを注いでいた。職業病なのかな、とふと思う。俺はマリィからワインを奪い取って、彼のグラスになみなみと注ぐ。
「今日は飲むぞ、マリィ! そのために歩いてきたんだし!」
「うん、でも無理はダメ」
「俺結構飲める方だから大丈夫! お前こそ潰れるなよ!」
そんなことを言いながら、他愛ない会話を交わしながら――いつもそうだが、ほとんど俺が話しているんだけど――食事もワインも進んだ。気付いたら、空腹状態だったし、久しぶりに飲んだせいか酔いが回って頭がぐらぐらしていた。
「エメ、歩ける?」
「うん……」
マリィに抱えられるようにして二階の部屋に行く。周りがぐにゃぐにゃになって見えてちょっと気持ち悪い。しかし一、二時間前に言っていた台詞を思い出して恥ずかしくなる。
「そこベッド。横になってて」
そう言って寝かせられて、マリィが食器の片づけをしに一階に戻ったところまでは記憶があるのだけれど、その後すぐに気を失うように眠ってしまったらしかった。
暑いな、と思っていた。酒が回って体温が上がっていたせいだろう。でも、少しして急に涼しくなった。衣擦れの音がしたり、身体を持ち上げられたりしていることに頭のどこかで気付いていたけれど、全身が気怠くてどうでもいいやって思ってしまった。頬を撫でる冷たい手の感触がして、それが心地良いと思うくらいには無防備だった。
でも次の瞬間唇に柔らかい何かが触れて、頭の奥で何か違和感を覚え、意識が少しずつ浮上してくる。
ぬるりとした生温かいものが口を割って中に侵入してくる。そしてひた、と胸の辺りを冷たい手が這う。何だかまずい気がする、とそう思うのに、まだ身体が自由に動かせるくらい眠りから覚めていなかった。
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