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ゆっくりと雄が引き抜かれ、ようやく解放された時、いつの間にか頬を伝い落ちる雫に気が付いた。そっと彼の傷だらけの細い指が涙を掬い取る。
「……可愛い」
俺の顔を蒼い二つの目で見詰めながら、ぼそりと呟く彼を睨み付けた。
「……この、糞野郎っ……」
他に何も言えなかった。殺してやるって思ったのに、言葉にならなかった。この蹂躙するばかりの行為に愛情なんて一ミリも感じる余地はなかったのに、どうしてそれだけで終わらせてくれなかったのだろう。
静まり返っていた瞳の海が一瞬揺らいだのを、俺の眼は捉えてしまった。
彼が俺にほんの少しでも慈愛と悲哀を見せなければ、明日の朝彼の心臓に刃を突き立てるのは簡単だったのに。
ーー頭まで、犯されかけてる。
倦怠感に襲われて抵抗することさえできないまま彼の腕に包まれてしまうと、脳の方も諦めてしまったのか、そのまま重くなった瞼を閉じた。
意識を手放す前、ぽんぽんと子供を寝かし付けるように、マリィはリズムを刻んでいた。それがあまりに優しく温かだったのを、深い眠りにつく前にぼんやりと覚えていた。
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