愛し愛されること

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愛し愛されること

「エメ……!」  遠くから俺を呼ぶ声が聞こえて、振り返る。走ってくるその姿を見て、俺は逃げ出そうか迷った。でも、迷っているうちにその人に抱き留められていた。  その大きな身体に包まれて、温かくて、また涙が出そうになった。 「どうして、あんなこと……どうして……」  言いたいことが喉に引っ掛かってそれだけしか言葉にならなかった。視界が涙で滲む。彼の長い髪が頬を撫でる。 「……どうやって愛せばいいか分からなかった」  耳元で聞こえたその声は、走ってきたせいなのかそれとも他の理由なのか、上擦っているようだった。 「誰にも愛されなかったから、愛し方が分からない。どうすればいいのか分からない」  そう言って俺に抱き付いているマリィの背が、微かに震えているのに気付いた。まるで小さな子供のように怯えているようだった。 「……お母さんは、マリィを愛してくれなかったの……?」 「母さんは僕を通して父さんを愛してた。僕じゃない」  彼の俺に縋るように回した腕に力が籠った。俺は、震えるその背を優しく撫でた。マリィは心を落ち着かせるように細く長い息を吐いて、ぽつりぽつりと話し始めた。 「母さんは同性愛者だった。けど、女装家だった父さんに恋をして口説き落として僕を産んだ。二人は一緒に暮らしてたけど、本当の夫婦だったかは分からない。物心がついた頃には既に僕は『マリィ』で、女の子の格好をさせられてた。僕が四歳になった頃、ドラッグのやり過ぎで父さんが死んだ」
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