愛し愛されること

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 淡々と過去の事実だけをなぞるように述べる彼の言葉に、感情の波は無かった。父親の死をまるで道端で死んでいる蝉と同じように何でもないことのように語った。 「母さんが僕に執着し始めたのはそれからだ。母さんは僕を女の子にしたがった。髪を長く伸ばして綺麗なワンピースを着せて、お出かけの時には化粧までして、『マリィ、綺麗よ』って。父さんに言っていたみたいに、毎日そう言ってた。僕が父さんが居なくて悲しくて泣いたりすると、怒鳴り散らした。『あなたは笑っていれば良いの! 笑っていない時のあなたは汚い!』って……僕はもう泣くのをやめた」  ――そうか。マリィは無感情なわけじゃないんだ。ただ、笑うこと以外の事が、それ以来できなくなったんだ。そう思ったら、俺は胸が苦しくてマリィの背にしがみ付くように抱きついていた。 「母さんに愛されたかったから、何があっても毎日笑った。学校で虐められても、陰口を叩かれても。母さんが喜ぶから嫌でも女の子の格好をして過ごした。母さんは幸せそうだった。……でも、二次性徴がきて、僕の身体は完全な男になった。母さんは、変わっていく僕を見て、可笑しくなった」  大きな身体が、小さく思えた。ここに居るのが、十五年前の幼い彼のままのように思えるほど、頼りなく心細い、彼の心を表しているようだった。 「母さんは精神を病んで、この間家に帰ったらシャワー室で手首を切ってた。息を引き取る時、母さんは僕を見て父さんの名前を呼んで、愛してるって……そう、言ったんだ……僕は愛されてなかった……一番愛されたかったのに……」
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