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肩に冷たい滴が落ちる。俺は少し身体を離して、乱れた長い髪を手で掬い取って彼の顔を覗き込んだ。その顔を見て俺は、涙が出た。彼は泣きながら笑っていた。大粒の涙を流しながら、でも顔はいつもの綺麗な笑顔だった。
彼の両頬を手のひらに包み込んで、額、瞼にキスを落とした。蒼い瞳が大きく見開かれる。
「泣いていいよ、マリィ。俺が、お前の全部を愛するから。それじゃ……俺から愛されるだけじゃダメ?」
蒼い海が風で波立つように、瞳の虹彩が揺れ、眉間に皺を寄せ顔が歪んで、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
俺は最初会った時から、マリィに恋してたんだとようやく気付いた。彼に対して感じてきたものの形が、ようやく分かった。俺は、マリィが好きだ。
「う……えっ、えぅ……」
まるで嘔吐くように嗚咽を漏らして泣き始める。泣き方が、分からないんだ。胸が締めつけられて苦しくて、俺は彼の額に自分の額をくっつけて、一緒になって泣いた。マリィの悲しみが少しでも和らいでくれればいいと思いながら。
しばらくして泣き止んだマリィの顔を見ると、目が真っ赤に充血していて、鼻は赤くなっていた。あんなに彫刻みたいに綺麗な顔もこうなってしまえば、人間味溢れた愛嬌のある顔になるなあと思って笑ってしまった。つられて、マリィも声を上げて笑う。それは今までに無いくらい余りに自然な笑顔で、つい見惚れてしまった。
「……帰らなきゃね。待ってるかも」
マリィから身体を離し、正面から向き合う。マリィは離れたくないのか両手を握り締めたまま離さない。
「エメ、好き……好き、愛してる……から、どこにもいかないで」
少し痛いくらいぎゅっと強く握られて、俺はまた泣きそうな顔のマリィを微笑みながら見上げた。
「どこにもいかないし、マリィをずっと好きでいるって約束するよ。逆にお前が俺を捨てたりしたら……死んでやる」
「……え?」
マリィが目を丸くする。俺は、恥ずかしくなって視線を逸らした。
「死んでやるって、言ったんだよ。だってこんな、みっともないくらい好きで……捨てられたら生きていけないだろ」
「捨てる、なんて、ない。僕は……昔からエメだけが好きだよ」
その言葉に引っ掛かって、俺はマリィを見上げた。頬を少し紅潮させて微笑んでいた。どこかで、この顔を見たことがあるような――。
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