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涙の海を渡って
チイはハリセンを持ったまま呆然としていた。
走っていった鳴海結愛という少女はハリセンを落としていったが、チイが送り届けようとしたところ肝心のその少女がいなくなっていたから。
そして目の前は行き止まりだった。
何か仕掛けがあるのかとあちこちを調べる。
しかし調べた所何も見つからなかった。
チイはしばらくどうやって帰ろうとか思った。
とは言えこんな谷底に落ちて登ってみてもいつ地上に出られるかわからない。
そしてここは洞窟の中で植物が淡い光を放っている以外は何もなく、人の気配もしない。
途方にくれたチイは泣きだした。
「うわーんウチこれからどないしたら良いねん!!」
チイは大きな声で泣きわめく。
すると涙が噴水状となりチイの足元を涙で満たす。
泣いても泣いても涙は枯れず、部屋中チイの涙で溢れ、それでも泣き止まず…。
やがてチイの涙は濁流となり洞窟一体がチイの涙で満たされてしまう。
そしてチイの前に立ちはだかっていた壁はチイの大量の涙で破壊される。
「キャアアァ!これはウチの涙…!?」
チイが我に返り、泣き止むとチイは自身の涙で溺れそうになっていた。
「ノファンさん助けて!ブクブク…」
チイは濁流となった自分の涙に溺れてしまう。
その時、チイの手を何者かが掴み、溺れて気を失っていたチイを外に引きずり出した。
ザザー、ザザー。
(あれ?ウチ生きてる?)
チイは海に浮かんでいるが船に乗っているのか、いや、イルカか何かに乗っているような感じを受ける。
体は外に出ているが足元は海に沈められているからだ。
「大丈夫かい?」
そのとき爽やかな青年の声がした。
「誰?誰かいるの?」
チイは見渡すが見たところ誰もいない。
「ここだよ、ここ!」
「え?」
下を見ると一頭の海豹がチイを乗せたまま顔をチイに向けていた。
(海豹が喋ったの??)
チイは驚いた。
しかしその後、チイは海豹から衝撃の事実を聞かされる。
「さっき凄い津波が来て建物やら人が沢山海に流されてたんだ」
!!!
その言葉で背筋が凍りついてしまうチイ。
体が固まるのを海豹は見過ごさなかった。
「さっきの津波って…」
「う、ウチは何も知らへんよ!」
チイは一生懸命否定した。
「…そうか、さっきの津波、人はジャバウォックの仕業なんじゃないかと噂してるみたい」
「ジャバウォック?」
海豹は少し訝しげに思ったが、別の話に切り替えた。
「世界を滅ぼす魔王さ、因みに奴を倒す勇者も現れるとも言われてるが…」
海豹とチイは話したあと自己紹介をしあった。
「申し遅れたね、僕はノフィン」
「山本チイです」
その時、ノフィンは異様な気配を海の底から感じた。
『グフフ、良いこと聞いちまったぜ!』
「!!」
その時海に黒い刃物のような物体が光りだす。
「お前はシャーク!!」
ノフィンは動揺に近い声を上げた。
『ノフィンよ、五万円貸してくれ、すぐに返すから』
シャークは無心しだした。
「嫌だ!お前に貸す金はもうない!!」
反論を繰り広げるノフィン。
「この小娘のこと、周りに言いふらしてもいいのかな?」
シャークは脅しをかけた。
「………」
ノフィンは弱腰になり、渋々財布を取り出した。
「ノフィンはん、こんな奴に金貸すことなんかあらへんで!!」
チイは力強く放った。
「チイちゃん…」
ノフィンは財布を仕舞った。
『くそう、この小娘が…かくなる上はお前ら二人ともこのシャークの腹の満たしにしてくれるわ!!』
シャークは大きく口を広げて襲いかかってきた。
「ノフィンはん!逃げるんや!!」
チイに叱咤をかけられたノフィンはシャークから逃げ出した。
「逃がすかー!!!」
二人を追うシャーク。
ノフィンはチイを乗せ、必死にシャークから逃げ惑う。
「しつこいなあんさん!あんまりしつこいと嫌われるで!!」
チイはシャークに文句を投げかける。
「果たしてそうかな?実際に嫌われてるのは海豹の方だ!だってそいつは…」
「ノフィンはん!危ない!!」
チイは目の前に岩礁がある事に気づき、ノフィンに知らせた。
!!
ノフィンは間一髪それを避けた。
チイが危機に気づいて知らせなければノフィンは間違いなく岩礁にぶち当たっていた。
ノフィンはシャークの言葉に動揺して集中力を失っていた。
「ノフィンはん!こいつの言う事気にしたらいけん!目の前に集中し!!」
「うん、ごめん!」
ノフィンは再びスピードを上げた。
どこまでもどこまでも追ってくるシャーク。
「この俺様から逃げられると思っているのかー!!!」
シャークの牙が眩く光る。
同時にチイの目もギラッと光った。
「浪速の少女怒らせたらどうなるかこの場で思い知らせたるわ!覚悟せえ!!」
闘気を放ち、浪速の少女チイはドスの効いた声でノフィンの背に立ち、シャークに睨みかける。
「この俺にこけおどしは通用しねえ!!」
チイを小娘だと舐めてかかるシャーク。
しかしチイはそこら辺の小娘とは違っていた。
「よう言った、ほな受けえ!これが浪速のライジングアッパーカットや!!!」
チイは闘気を纏ったアッパーカットをシャークに浴びせた。
「ウボァーーー!!!」
シャークはぶっ飛ばされ、海飛沫を上げて沈んだ後、海の上にプカリと浮き、そのまま海を漂っていった。
「驚いた…チイちゃんすごく強いんだね…」
「うん、おとんやノファンさんに鍛えられてたから…」
それから陸に着きチイを降ろすノフィン。
「着いたよ、ところでその…気にしてないかい?」
ばつが悪そうにチイに尋ねるノフィン、さっきチイに忠告していた事を気にしていた。
「え?何の事?」
「ううん、今の言葉は忘れて、君はジャバウォックなんかじゃない、それだけは確かだ!」
「…なんだかよくわからないけど…ありがとう!」
チイは訝しく感じながらも礼を述べた。
「何があっても僕が絶対君を守るから、ただ君が異世界から来た事は人には絶対言わないで」
「う、うん」
「じゃあ、また僕らは会うだろう、その時は敵になってるかも知れない…」
「そんな悲しい事言わんとって!」
「…そうだね、じゃあ、また会おう!」
そしてチイとノフィンは分かれた。
彼女はジャバウォックかも知れない、或いはジャバウォックを倒す勇者か…しかし人は多分彼女を疑うだろう。
そんな彼女を守ってやれるのは僕しかいない。
守ってやれる方法はただ一つ…。
僕がジャバウォックになればいいのさ。
汚れるのは僕だけで良い。
彼女が勇者にしてもジャバウォックにしでも不思議な力を持ってると言う事は早かれ遅かれ彼女を利用する者が必ず現れると言う事だ。
僕は彼女を守るために、一つのことを実践するのみだ!
もう一度言うけど穢れるのは僕だけで充分だ。
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