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ジャバウォックは目前に…
チイは今ドラゴン退治の依頼を受けてとある城でドラゴンと戦っていた。
城はドラゴンに占拠され、元々住んでいた人達は地下に追いやられているのだ。
ドラゴンは口から灼熱の炎を発し、斬りかかろうものなら鋭い爪で斬り裂き、硬い鎧のような鱗を纏い剣も魔法も通らなかった。
『グフフどうした人間?お前の実力はその程度か?』
ドラゴンはチイを見下ろし挑発する。
「上には上がおるもんやなあ…魔法も剣も通らんし…」
そんな時、「遅くなったでし!」と独特の語尾を発する青年の声が響き、華麗に着地した。
それは銀世界のような銀髪に、白くきめ細かい肌の細身の美青年だった。
「ユイチイ!!」
現れたのはユイチイ、酒場で知り合った青年である。
彼はナイフマニアでナイフを二丁構える。
「沢山の魔物がいて大変だったのです!でもこの美少女魔法使いノウルがこの笛でお外に出しましたよ!」
後から、まだ年端もいかない幼女が助太刀しに来た。
そのあとノウルは笛をその小さな口に咥え、また吹き出す。
「これが本当の壕笛じゃあああああぁ!!!」
なんの曲かわからないが上手く奏でながら叫ぶノウル。
「いやそれはもう良いから…」
ユイチイはノウルを呆れるようにたしなめる。
「それにしてもチイ様、やられてる姿も随分素敵でございますよ?ははあんさてはそれを元にエロ動画に売り込むつもりですね?」
ノウルはやられかけてるチイを見ては流し目を送ってからかってきた。
「行くぞチイちゃん!このドラゴンを倒してから自身の陵辱されている姿をエロ市場にカチコミじゃあああぁ!!!」
「おうよ!こんなドラゴンなんかにこの浪速少女山本チイは負けへんで!!」
ドラゴンの腕に押し潰れそうになっていたが二人の仲間が助太刀に来た事によって集中力を切らしたドラゴンの腕をチイは剣で払う。
『くうう、他にも仲間がいたとは…』
ドラゴンは悔しそうな顔をする。
一方チイはゼエゼエと息を荒げる。
体には傷をつくり、ドラゴンとの激戦で随分体力を削がれたようだ。
「ごめんね、ノウルちゃん口達者で…」
ユイチイはチイに申し訳無さげに謝るがチイは全然気にしてへんよと返す。
「でも随分HP削がれているようですよ?この煎じて作ったポリフェノールを飲んで体力回復させてください、ポリフェノールには疲労回復の効果があるのです!他にも抗酸化作用が強く活性酸素などの有害物質を無害な物質に変える作用があって動脈硬化など生活習慣病の予防に役立ち…」
ノウルは説明をしながら薬草をチイに手渡す。
「ありがとうなお嬢ちゃん!」とチイ。
「ユイチイも薬草を持って!」ノウルは薬草をユイチイに渡す。
(またアレをやるんでしか…)と半ば呆れながらも薬草を受け取るユイチイ。
「さあ行きますよ?これが本当のポリフェノールじゃああぁ!!!」
三人は同時に薬草を飲みながら叫んだ。
するとみるみるうちに三人の体力が回復する。
『所詮は只の女に若造にちびっ子ではないか!この俺様も舐められたものだな!』
ドラゴンは屈強そうには見えない三人の戦士達を見下す。
「大した事が無いかはウチら三人と戦ってから言えや!!」
ポリフェノールを飲んで体力を取り戻したチイは会心の一撃をドラゴンに浴びせる。
『やられるか!ドラゴンスイング!!』
ドラゴンは鋭い爪でチイを斬り裂きにかかる。
「させないでしっ!」
ユイチイがドラゴンの目めがけてナイフを投げる。
ユイチイの放った投げナイフは見事にドラゴンの目に命中し、ドラゴンは片目を失明した。
『ぐああぁ!目が、目があぁ!!』
「これが本当のアーマーブレイクじゃあぁ!!」
ノウルは杖を向けて呪文を放つ、するとドラゴンの鱗が剥がれ、裸同然となる。
「さあチイちゃん!今ですよ!!」
「おう行くで!これが本当の浪速のど根性じゃあぁ!!!」
チイはとどめの一撃をドラゴンに放ち、ドラゴンは阿鼻叫喚の悲鳴を上げながら地に崩れ落ちた。
「それにしても私達はこの芸でサーカスにも入団出来そうですね?やりますか?やるなら今でしょ?」
「いややらなくて良いから…」
ノウルが思いついたように言葉を発するとユイチイが手のひらを横に振って拒否する。
「行くぞ!サーカス団にカチコミじゃああぁ!!!」
「何故そうなるでしっ!?」
二人のやりとりにチイはクスクスと笑う。
「いつもすみません、お恥ずかしいところを見せてしまい…」
「いえいえ賑やかで微笑ましいじゃないですか♪元気な連れさんですね?大事にしたげてください♪」
チイは心からの言葉をかける。
「じゃあ依頼も完了した事ですし僕はノウルとまた旅に出ます、またどこかでお会いしましょう!」
「やだーノウルお姉ちゃんと離れたくない!!」
「僕らは逃亡生活しているから無理でし!お姉ちゃんに迷惑かけられないでしょ!!」
そして手を振りあって分かれる。
「人にはそれぞれ事情があるんやなあ…」
チイは二人を見て思った。
ユイチイとノウル、鳴海条ワールドからやってきた。
どこから来たかは不明だが色々事情があってこの世界に行き着いたようだ。
二人と分かれてチイは元の世界に戻るために稼ぎながら各地を歩き回る。
そんな時空から翼を生やした馬が光を放ちながら舞い降りて来た。
「アンタはペガサス…」
チイがあの世であった天馬である。
「チイよ、時間が無い、ジャバウォック復活が目前に迫って来ている!」
「ジャバウォック…そういやノフィンて子がそう言よったな…」
その瞬間ペガサスの目が見開いたようにチイは感じた。
「チイよ、ノフィンという男に会ったのか??」
「え?」
ペガサスの口調は狼狽えているように聞こえる。
次にペガサスから放たれた台詞でチイは衝撃を受ける事になる。
「これはわしの推測だが…ノフィンはタキシードスィールという、勇者がいずれは倒さなければならない相手じゃ!」
!!!
あのノフィンが!?
「そんな…嘘でしょ?」
「倒す事にならなければ良いが…奴はここの所ジャバウォックでは無いかと噂されておる、奴は2、3の街を壊滅させ、目に余る行動を起こしておる、我々神々はタキシードスィールに対しなんらかの措置を取ろうかと話し合っておる所じゃ」
ペガサスは静かに、重い口調を漏らした。
(だからあの子、次会う時は敵みたいな事言ってたのか…)
チイの可愛い顔もまた、暗く沈んだ。
いやあかん、ウチは浪速少女や、こんなところで挫けたらおとんやノファンさんに笑われてまう!ウチがせなあかんことはただ一つ!
「ペガサスさん!タキシードスィールの事はウチに任せてください!ウチも浪速少女…いや選ばれし勇者!彼は殺さずウチが説得して更正させてみせます!」
ペガサスは目を細めた。
「君のその目の輝きはあの娘にそっくりだ、君ならジャバウォックを倒す事も出来るしタキシードスィールも更正させられるやもしれん!一度に二つの仕事を与えてしまう事になるがそなたならやれるな?」
「任せてください!」
ペガサスは安心したようにそっと微笑むと透明になっていきやがては消えた。
「ノフィン、アンタは絶対ウチが更正させたるけん!」
チイは何処かにいるだろうノフィンに対し空を見上げながら誓った。
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