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勇者の本気!
ナリスってばチイが安請け合いしてはいけないと言ったのに人からまたとある依頼を安請け合いしてしまった。
その依頼とはゴブリン退治、まあゴブリンと言えば下級モンスターで初心者向けのモンスターではありまだ良いのだけれど…。
そのモンスターは畑を荒らしまわったり酷い時は子供をさらって食べてしまうと言うのだから駆除するに越したことは無いとされる。
まあナリスはかなりビシバシ鍛えたし、何とかなるでしょう。
ナリスもかなり自信満々だし。
「チイ様!今度こそチイ様のお役に立ってみせますよ♪」
腕まくりをして力こぶを作り微笑みかけるナリス。
可愛い笑顔ではあるけどこう言う笑顔を見せる時がかなり危ない。
防衛本能的にそう言う危機感がチイの中にいつのまにか刻み込まれていた。
「き、期待してるよ…」
チイは苦笑いして棒読みでナリスに返した。
ゴブリンは自分達で掘った洞窟で集団行動をし、生活している。
姿は人間の子供程の大きさだがすばしっこく普通の人より少し力がある程度。
容姿は醜くガマガエルのような肌質にギョロっとした目で知性も小狡い程度にはあり武器も使う。
ただ良心の欠片も無く本能で動いているのでかなり厄介な生き物だ。
その洞窟が見えた時ナリスがカタカタと震えだした。
「大丈夫?寒いの?」
「いやいやいや、武者震いですから!」
チイがカマをかけるとナリスは汗をダラダラ流し強張った表情で声が裏返っていた。
分かり易すぎる…。
「しっかりしなさい勇者でしょ?貴女は私から沢山訓練を積み、強くなった!一つ一つ教えた事を忘れていなければゴブリンなんて楽勝なはずよ!」
チイはそう言いナリスを勇気づける。
「が、頑張ります!」
ナリスは汗いっぱいの手で剣をぎゅうっと握り洞窟の奥に入った。
洞窟に入った途端黄色い光が2点ずつ、まばらに光りだす。
『ニンゲンダ…オンナダ…!』
声の主はゴブリンの雄のようでゴブリンの群れは発情した獣のように唸りチイ達の前に集まりだした。
ゴブリンの姿が見えた途端「ひええぇ!」とナリスは腰を抜かしだした。
「立ちなさい!そしてゴブリンと戦いなさい!」
チイは自分専用の剣でゴブリンと応戦しながらナリスを叱咤する。
「やっぱり無理ですぅ!戦えません〜!」
ナリスはゴブリン相手にビクビクと震え上がりゴブリンがそれに乗じてナリスを襲い出す。
「いやあぁ!KEIさん助けてぇ!!」
事もあろうかナリスはチイに助けを求めだした。
「ああもう!」
チイはゴブリンを払いのけナリスを庇いに入る。
ナリスは襲われてて衣服も破かれていたがチイが庇いに入った為大ごとには至らずに済んだ。
だがこのままでナリスも、チイも無事では済まない。
戦況は崩れて多勢に無勢の状態だ。
ゴブリンは棍棒を振るい私達にダメージを与えようとかかる。
「このお!」
「ひいいぃ!!」
次々とゴブリンを払うチイに身を守るだけのナリス。
ゴブリンはナリスに狙いをつけ、ついにはナリスを盾にしだした。
「ああああ!」
盾にされたナリスはちびり固まっている状態で抵抗もままならない。
「邪魔じゃ!!」
チイはナリスを蹴り飛ばし向こうのゴブリンを剣で斬り裂いた。
「足手まといになるようなら帰れ!!」
堪忍袋の尾が切れてチイはナリスを一蹴する。
「く、くそう…」
チイの言葉が胸に刺さったようでようやくナリスは本気になりだした。
そう、その悔しさをバネにするのよナリス!
チイはナリスにそう心の中で激励した。
「うおおおっ!!」
ナリスは剣をゴブリンに向けて振るうが大振りで隙だらけ、表情にも恐れが見える。
ゴブリンは逆にナリスの剣を弾いてしまいナリスを棍棒で叩きのめしてしまう。
チイはナリスの前に出てゴブリンの攻撃を代わりに受ける羽目となる。
「師匠!」
「せやから安請け合いするなと言うたのに…」
ついにはチイもゴブリンに衣服を破かれ襲われ放題となる。
「よくも、よくも師匠を…!」
ナリスの怒りは頂点に達した。
これまで足を引っ張ってばかりだったナリス。
だがそんなナリスの中に溢れ出た勇気、モンスターと戦おうとする気概。
それがナリスの中に渦巻いていた。
「チイ様!このナリス・タンナコッテが助けに参ります」
力強く一声を放つ少女。
少女はたった今真の勇者として覚醒した。
「喰らいなさいゴブリン共よ!これが新たに編み出した真の攻撃魔法ベキラゴ…」
グボッブリブリブリ!!!
うごっ!しまった!魔法を放つつもりが中身を噴出させてしまった!!!
ナリスはしまったと思った。
Siriが温かい感触に包まれ、そこから異臭が放たれる。
ナリスはゴブリンに棍棒でSiriを叩き飛ばされる。
Siriから出たそれがクッションとなり、ダメージは軽減されたが向こうの壁に前屈みの姿勢だった為顔面を打ち付けられてナリスはそのまま伸びてしまう。
そしてパーティーは全滅した…。
ーーー
「う…ん…あれ?ウチどうなっとるの?」
雲の上にいるような感覚。
さっきまでゴブリンに矢継ぎ早に棍棒で撃ちつけられて体の節々が痛かったのだが今はそんな事はなく、チイは目を開ける。
そこは本当に雲の上にいるような景色だった。
そんな時若い青年の声がした。
「大丈夫でっか?」
馴染みの深い関西弁…ウチひょっとして大阪に戻ったの?とチイは声のした方向に振り向いた。
そこにいたのは茶髪にタンクトップを羽織った筋肉質だがハンサムな青年だった。
「あ、貴方はひょっとしてアレン様!?」
チイは目を輝かせた。
「確かにわいはアレンや、あんさん、ゴブリンという奴と戦っとったんやろ?ゴブリンの匂いがプンプンしよるで?」
何気に失礼な事言われた気が…でもそれこそ
アレン様の魅力♪
チイはアレンを見てデレデレした。
ウチこのままずっとアレン様とおれるんやろか?
そう思ったその時アレンが口を開いた。
「チイはん、あんさんはまだ死ぬ時やない、わいはあんさんに力を与えに来たんや!」 「力を与えに?」
チイは目をキョトンとさせる、アレンは真剣な眼差しをチイに向けていた。
『山本チイ…』
それと同時に大きな翼を携えた白馬が空から舞い降りてきた。
「ペガサス!」
『そなたは神から選ばれし「破壊の巫女」生まれついて勇者の宿命を背負った者、世界を救わずして天で過ごす事は許されぬ!』
ペガサスは神々しい瞳でチイに一喝を入れる。
「破壊の巫女…勇者?勇者はさっきまでウチと一緒にいたナリスって女の子のはずじゃ…」
『彼女は自分で勇者と思い込んでいるだけで誠の勇者にあらず!真の勇者は山本チイ!そなただ!!』
ペガサスから放たれた衝撃の事実!
じゃあ勇者と思っていたナリスって女の子は…。
『山本チイよ、時間がない!そなたは今ゴブリンに襲われておる!力を与えるから危機を脱出し、世界を救うのだ!!』
「チイはん、頑張りや、わいも応援したったるさかい!」
アレン様が元気付けてくれるけどウチはアレン様と分かれるのは嫌や!!
「アレン様!」
ウチはアレン様に手を伸ばす。
「済まんな、今はワイはあんさんの手を握る事は出来ん、せやけどいつかは…」
「アレン様ーーーー!!!」
チイはペガサスに乗せられ地上に戻された。
ハッと目を開けるチイ。
そこには不気味に笑うゴブリンがチイを見下ろしていた。
う…ウチゴブリンの群れに襲われとる!
そして身ぐるみ剥がされて生まれたまんまの姿!
おどれゴブリン共め!ウチが気を失っとるうちに随分好き放題してくれたもんやなあ!!
チイに怒りの火が吹いた。
ドゴオン!!
チイは拳を突き出しゴブリンの大きな鼻に鉄拳をのめり込ませる。
チイの上に乗っかっていたゴブリンは向こう側の壁まで殴り飛ばされる。
その他大勢のゴブリン達は何事!?という風に一匹の殴り飛ばされて鼻血をダラダラ流し気を失ってるゴブリンをキョトンと見ていた。
チイの身体から目に見える程の闘気が放たれ、暗い洞窟内はチイの闘気で僅かに照らされる。
「おどれらウチを汚そうとしたからにはウチの目の黒いうちは生かして返さへんど…」
チイは魔人のような出で立ちでゴブリンの群れを見据えた。
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