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「お待たせ。おやつの時間だね、ジョン」
思いきり日本生まれの柴犬にこの名前を付けたのは、健だったか、康だったか。
ジョンは、尻尾をブンブン振りながらおやつのジャーキーに物凄い勢いでかじりつく。
いつぞやの誰かさん達を見ているようで、思わず笑いが込み上げてきてしまった。
そんな愛犬の後ろ姿を眺めながら、私は夫が作った不格好なベンチに腰掛けて、コーヒーを入れたマグカップに口を付けた。
穏やかで、静かで、
何か少しだけ物足りないような……贅沢な時間。
仕事に追われてる息子達には、こんな風にゆっくりとコーヒーを飲む暇くらいあるのだろうか。
「……たまには、顔が見たいわね。
そう思わない?ジョン」
ワンッ!
名前を呼ばれて、散歩に行けると勘違いしたジョンが嬉しそうに返事をしてくれて、
私はフフッと笑いながら、エプロンのポケットからスマホを取り出した。
『元気にしてる?
仕事大変だろうけど、
休み休みいきましょう!』
二人に宛てて、久しぶりのメッセージ。
返事は三日以内にくればいいところ。
私は、コーヒーの残りを飲み干して、
それから大きく伸びをした。
「さ、気長に待ちますか!」
懐かしいオルゴールのメロディに、
思いを馳せながら。
Fin
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