7人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ホットケーキを焼くだけの話
なんだかやる気が起きない日。
何もせずにただ部屋でごろごろしているだけの休日。
そんな日の午後は、ホットケーキを焼くに限る。
特別お洒落にする訳でもなければ、豪勢にする訳でもない。
なんたって今日はやる気が起きない日なのだから。
午後2時過ぎ。
やる気のない僕はよっこらせと重い腰を上げ、キッチンへと向かう。
冷蔵庫を開ければ詰め込まれた様々な食材のビビットな色彩に目が眩む。
今日はそんなに凝ったものを作る気分じゃないんだ、ごめんね。
心の中でそう呟いて、僕は卵を1個と牛乳を取り出す。
続いて戸棚の奥底に眠っているホットケーキミックスを引っ張り出してくる。
手抜きと思われるかもしれないが、なんたって今日の僕にはやる気がないのだから許してほしい。
さて、まずは牛乳を150ml正確に計る。
たとえやる気が起きなくても、こういった細やかな作業が重要なのだ。
そうしたらボウルに卵を割り入れ、泡立て器で混ぜる。
続いて牛乳、ホットケーキミックス一袋をボウルに開けて、黙々とかき混ぜる。
無心でかき混ぜていると、心の中のもやもやも一緒に溶けてしまうように感じる。
生地を混ぜ終わったら、今度はフライパンを熱し、濡れ布巾を用意する。
一枚焼く度に一度フライパンを冷ますのは絶対的な拘りだ。
たとえやる気が起きなくても、こういった拘りを大事にしなければただの苦行だ。
最初の一枚を焼き終えると、周囲に甘い香りが漂ってくる。
僕は焼きたてのホットケーキに齧り付きたい衝動を抑えてフライパンをもう一度冷まし、二枚目を焼く作業に取り掛かる。
そうやって何枚もホットケーキを焼いているうちに、段々時間を忘れてくる。
甘い香りに誘われながら僕は何枚ものホットケーキをひっくり返す。
飾り付けなんて上等なものは必要ない。
マーガリンと安物の蜂蜜があれば十分に美味しく頂ける。
ボウルの中身が空になった頃、リビングの鳩時計が三時を告げた。
今や部屋中に幸せの香りが充満している。
いくつものホットケーキが重ねられた器を運びながら、僕はあれこれと考えを巡らせる。
このホットケーキを食べ終えたら、何をしようか。
最初のコメントを投稿しよう!