挑まざる得ない者

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挑まざる得ない者

 あの糞ヤローが!  自分でやった仕事に『エリーナ 作品6』だと!  ふざけた事をしやがって……。  絶対に許さねー。  叩き殺す!  クレイジージョー、貴様は私の領域を土足で踏み躙った。罰を受けてもらう。楽しみに待っていろよ。ただ、これだけ派手に挨拶をして貰ったんだ。こっちもそれなりの挨拶をさせて貰うよ。  とにかく行動開始だ。こんな事をされて、いつまでも潜っている訳にはいかねー。  待っていろよ!  このカスヤロー!  とりあえず殺す前に、お前にしっかりと挨拶をしてからだ。私の仕事に、クレイジージョーのネーミングをつけてやるよ。  私はまず人気のない廃屋を探すことから始めた。私の場合は、倉庫のような所を使うが、奴はいつも廃屋を使っている。廃屋なんて探すと以外と簡単に見つかる。短絡的なアイツらしいな。  廃屋を見つけたら、次に獲物の物色だ。私の作品に相応しい獲物で無いと困るから、それだけは拘らせてもらうよ。お前みたいに単純な発想で獲物は選ばない。私は獲物に孤高さも求めるんでね。  私は夜の街中を彷徨うかのように歩き続ける。眠ることを忘れた街ではあるが、適度な闇が私を上手く隠してくれるから。  繁華街のネオンがちらつく中、紺色のスーツ姿の青年を見つけた。  一人寂しく街中を歩いているように見えるが、背中から漂うオーラには、現実を生き抜く活力的な物を感じる。  充実した世界を生きている!  そんな感じだ。早速、調査開始だね。ワクワクしてきた。こいつが私の作品となるのに相応しい人間なのか楽しみで仕方ないよ。  私がこの青年に張り付いて、分かった事は、都内のアパートに一人暮らし、特に付き合っている女性はいない。仕事以外ではスポーツジムで身体を動かすか、何処かに適当に出掛ける程度。毎日を生真面目に過ごしている感じだ。  そう言えば、この前は何処かの居酒屋で、自分より若い人達に色々と熱い話を聞かせていたかな。仕事への情熱が感じられて、ちょっとかっこ良かったよ。  殺し甲斐があるってことだよ。私の作品になれるんだ。光栄だろ。私は笑いが止まらなくなってきた。  私は獲物の捕獲に取り掛かることにした。狙うは帰宅時、彼が住んでいるアパートの近くに車を止めて、夜の闇に紛れ仕事帰りを待つ。  街灯こそあるものの、アパートの周辺は闇に包まれているようなものだ。身を潜めるには事欠かない。彼が住んでいるのは二階、二階へ上る階段の下に身を潜める。静寂さえ保っていれば、気づかれることはない。皆、自分以外の事には無頓着過ぎる社会だからね。  彼はいつもと変わらない様子で帰ってきた。彼の足音が私の心臓の鼓動にシンクロしてくる。素晴らしい緊張感が私を包み込んでいく。  堪らないな。凄くワクワクしてきたよ。  彼が階段を上りかけた時、私は階段の下から瞬時に飛び出し、背後からスタンガンを当て、彼の意識を吹っ飛ばした。  彼は、一瞬声を上げたものの、上体を思いっきり反り返らせてから、ばったりと仰向けに倒れ込んだ。  私は笑みを浮かべ、彼の両腕を後ろに回してから両手首をクロスさせて縛り上げてから、両足首もロープで縛り上げ、台車に乗せて車まで運び、予め当たりをつけた廃屋へと移動をした。  廃屋の中へと彼を運び込み、うつ伏せにして、縛り上げた両手首と両足首の間をロープで繋ぎ、身体を起こして正座の状態にしてから、首をロープで縛りそのロープを伸ばして柱に縛り付けてピンと張り、その状態を固定した。 「ここはっ」  彼は意識を戻した同時に、身体を動かそうとしたため、ロープが喉に喰い込み、言葉が途切れ喘ぎ声を上げる。 「気がついた~。これから楽しい事、一杯しようね~」 「お前は誰だ!ロープを解け!何でこんなことをする!」 「楽しいからに決まっているだろ!このボケ!」  私は右フックを彼の顔面に叩き込む。彼は濁ったような声を出してから項垂れる。 「ごめんね~。つまらない事を聞くからだよ~」  彼の口から流れ出す血を受けながら、右手で彼の顎を撫でる。 「分かったら返事!」  左のアッパーを彼のボディーに突き刺すように打ち込む。喘ぎ声を上げ、身体を曲げる。 「こんなことして……。ただで済むとおもっているのか……」 「こわ~い。でも、ちょっとかっこいいかな~。けど、私の要望を満たしていないな~。残念!」  私は左の膝を胸に叩き込み、右ストレートで顔面を打ち抜く。彼の口から血が流れ出すと同時に折れた歯が落ちるのが見えた。 「きさま……。ぶっ殺してやる……。ぜったいに……。許さないっ……」  彼は途切れ、途切れになりながらも、言葉を必死に私にぶつけてきて、私を睨み続ける。 「今のもかっこ良かったよ。けど、私の心を満たす事は出来なかったな~」  私は彼の脇腹を左脚で蹴り上げてから、左右のフックの連打を顔面に叩き込み、右の回し蹴りを彼の側頭部に叩き込んだ。  鈍い音が響くと同時に右足に伝わる、何か硬い物を砕き喰い込んだ時の素敵な感触……。  堪らない……。  彼は言葉にならない、息詰まったような濁った声を上げ、がっくりと項垂れ、私を睨むことが出来なくなった。  口からぼたぼたと流れ続ける鮮血が、私の笑みの奥に潜む物語を進めていくかのように、彼のワイシャツを深紅に染め上げて行く。  私は彼の背後に回り、ロープを両手で掴み、右足を彼の後頭部に当て、思いっきり引っ張る。  彼は身体をびくびくと震わせながら、言葉にならない擦れた喘ぎ声を上げ続ける。  私はロープが彼の喉に喰い込んでいき、彼の命を少しずつ削っていく、メキメキと軋むような音を確認しながら、両手にロープから伝わってくる彼の命の温かい儚さを感じ取る。  彼の擦れ切った声すら聞こえなくなり、私はロープを引っ張るのを止める。 「つまらなくなってきたな~。ね~。さっきみたいに私を楽しませてよ~」 「おっ、お願いしますっ……もっ……もう止めてくださいっ……」 「もう終わりかよ!ふざけるな!このカス!」  私は彼の顎に渾身の左フックをぶち込んだ!  彼の顎は右に綺麗に流れるように動くと同時に、頭部が左側に揺れ、彼はがっくりと項垂れ、言葉を発する事は無くなり、私を睨み続けた目は閉じられてしまった。 「つまらない……」  私はただ一言、そう呟くしかなくなってしまった。  終わりにしよう……。  こいつは私の作品に相応しくなかった……。  私はナイフを握り締め、彼のお腹に突き刺し、ナイフが彼の肉体の奥深くまで喰い込んでいく感触をしっかりと確認してから、一気に水平に切り裂く!  お腹から鮮血が一気に溢れ出し、私は切り開かれたお腹の中に右手を突っ込み、右手で何か柔らかいぐにゃぐにゃとした物をしっかりと握り潰した感覚を掴んでから、内臓を思いっきり引っ張り出す!  彼はびくっと身体を大きく痙攣をするかのように震わせ、口から血を嘔吐するかのように大量に吐き出す。  内臓は彼のお腹から垂れ下がり、正座をしている彼の両脚を覆い隠すようにゆっくりと流れ、畳の上を這うように動く……。  私は彼の血で廃屋の壁に記す。 『C・JYO』と……。    成美ちゃん!  これって酷過ぎないか。僕は成美ちゃんの復活を素直に喜んでいたのに。何でこんな事をするんだよ。自分のやった事に僕の名前を付けるなんて酷いじゃないか。  こうなったら、お返しをするよ。悪いのは成美ちゃん。君だよ。  まずは、僕のやったことに成美ちゃんの名前を付ける。いや、成美ちゃんの場合、『エリーナ』で作品ナンバーか。確か次は7番だよね。7番は僕が貰うね。成美ちゃんに7番は作らせないよ。  それから、成美ちゃん。君を解放してあげる。君も今回、こんな間違いを犯したと言う事は、もう疲れているんじゃないのか。実は、心の奥底では救済を求めているんだろう。僕の出番じゃないか。  きっと僕が君に引導を渡すことが、君にとっての救済だよね。  さてと、仕事に取り掛かるかな。まずは、成美ちゃんに派手に挨拶を返さないとね。そうしないと、成美ちゃんに遭う事なんて出来ないよね。このくらいで尻込みをしていたら、良い笑い物になってしまうからね。  成美ちゃん。 挨拶が済んだら、君のレスポンスを待っているよ!  だから、今回のショーの会場は使用されていない倉庫を使う!  君が今回、敢えて廃屋を使ったように。  君はいつも使用されていない倉庫を使っていたよね。
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