道筋を建てる者

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道筋を建てる者

「成美が早速動きましたね。冬真さんの読みが当たりましたよ。残念ながら、犠牲者を出す結果となってはしまいましたが……」  内菜の声が積極的ではあるが、何処かに影を感じさせながら響いた。 「成美はクレイジージョーと違い、規則性があるからな。刺激を与えるなら成美の方だと推測出来た。ただ……。成美がこんなに速く行動を起こすとは思わなかった」  俺の回答も、自信を持たせながらも、何処かに影を落とすものとなった。 「確かに、クレイジージョーは自由奔放に殺しを楽しむのに対し、成美は自分にルールを課して殺しを行っている感じがしますね」 「その通りだ。それだけに成美の方が、自分の領域を侵されることを嫌うタイプだ。だから、成美を先に動かすことを選んだ」 「成美は私達の思惑通りに動いてくれた。これでクレイジージョーも黙ってはいないですよね」 「奴は自由ではあるが、今回の成美の行為をスルーすることは出来ない。奴にも拘りがあるからな」 「そして、クレイジージョーは成美に仕返しをする。そうなれば、二人は戦いを始める。筋書き通りですね」  俺達の計画は二人を叩きつぶすこと。二人を逮捕するなんて考えはない。逮捕しても、裁判で死刑に持っていけない可能性が高い。成美が逮捕された時の調書を見れば、一目瞭然だ。精神鑑定に持ちこまれ、残りの人生を精神病棟で送られてしまう。俺達の狙いは二人の消滅だ。 「成美は次の行動に移るはずだ。クレイジージョーを静観することはない」 「次の行動……。クレイジージョーを仕留めにかかる」 「そうだ。ただ、それには我々の方である程度の道筋を立てなければならない。そうしないと、奴らは接触をするまでに殺害を続けてしまい、犠牲者が増え続けてしまう」 「そうですね。犠牲者はここで食い止めないといけないですよね」  俺は静かに頷いた。  成美を煽るために準備した死体は、我々が揃えたものだが、成美がクレイジージョーを煽った惨殺体は、成美によるものだ。これ以上の犠牲は決して許されない。それには、クレイジージョーが犯行を行う前に、二人を接触させることが重要なのだ。 「こちらが準備した車が動き出しましたよ」  内菜が目の前のモニターを見ながら俺に話しかけてきた。俺も早速、モニターを覗きこむ。 「何処に行くかが問題だな。使用されていない倉庫に向かってくれたら大当たりだ」  二人とも車を盗んで犯行を行う事はお見通しだ。  成美の場合は車種に拘りがなく、場所も何処かに集中することがなく、鍵が掛かっていても難なく車を盗んでいたが、クレイジージョーは違った。 奴は、軽自動車で鍵が付いた状態の車を常に狙っていた。また、盗んでいる場所も都内の繁華街と決まっているような状態だったので、奴が車を盗む区域については、ある程度の特定ができた。  そこで、クレイジージョーが車を盗む区域内に、こちらで何台か鍵をかけた状態の軽自動車を準備した。当然、監視は怠っていない。関係の無い奴が盗むことだって、大いにありうる事だ。  成美を刺激して、クレイジージョーを動かす。要は、成美よりも、クレイジージョーの方が動きを捉えやすい。 この策を用いた理由の一つだ。 「冬真さん。車内のカメラから映像が送信されません。気がつかれたかもしれません」 「探知機も稼働していないのか?尾行はどうなっている?」  内菜の言葉に俺は慌てて対応する。 「探知機は稼働しています。ただ、尾行は巻かれました。都内の道を知り尽くしているような感じの運転ですね。異常な経路を運行しています。気がつかれてしまいましたかね?」 「運転を続けているだろう。大丈夫だ。問題はない。最近、車内にカメラを設置している車は増えているから、その辺は気がついたんだろう。それに奴は犯罪者だ。自由奔放とはいえ、行動が慎重になってもおかしくはない」  盗まれた車は、数時間程、複雑怪奇な経路で運行を続け、郊外の所で暫く停止をしていた。 「停止した場所を調べるんだ」 「業者の倉庫らしい物がありますね」  内菜は早速、現場の航空写真を映し出す。 「間違いないな。クレイジージョーの次の犯行現場だ」  今の段階で奴を抑えることは可能だ。ただ、四件の殺人を全て立証出来たとしても、死刑に持っていける可能性は低い。下手したら、精神病棟での快適な残りの人生を確約させてしまう恐れもある。  それは断じて許さない!  これに関しては、内菜も同じ考えだった。  二人で潰し合ってもらい、共倒れをしてもらう。  それには、成美に気づかれずに、成美を誘導する必要がある。  盗難車を使っている以上、殺害に着手するのも速いだろう。  クレイジージョーの動きを観察しているだけでは、成美が次の犯行を犯してしまう可能性がある。  それだけは、阻止しなければならない! 「冬真さん。追尾をしていた刑事から連絡が入りました。到着先は、現在、使われていない倉庫とのことです」 「ビンゴだね。尾行をしていた刑事には、引き上げるように伝えてくれ。今の段階で奴を逮捕することは出来ないし、何よりも奴に感づかれては困る」 「分かりました。そう伝えます」  動き出したなクレイジージョー。これからお前にぴったりの彼女を紹介してやるから、楽しみに待っていろよ。
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