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潜伏する者
私の名前は成美 桜花。人がすれ違う時に、お互いで譲り合わないと通れない、そして、街灯すらない狭い路地の脇に建っている、古ぼけた一昔前の時代感を感じさせるアパートに一人で暮らしている。
実は、グラビアアイドルをやっていたんだけどね。
今は此処で大人しく暮らしているよ。流石に八人の人を殺した内、刑事が二人だったからね。暫くは大人しくしていようかなってこと。
けど、身体の鍛錬だけはしっかりとやっているよ。私の妄想がいつ踊り出すか分からないから。妄想が躍り出すと止まらなくなっちゃうから……。
そう言えば、私が大人しくしていたら、最近、何処かのバカがやたらと目立ち出してきたんだよね。
確か、クレイジージョーとか名乗っていたけど……。
知性の欠片すら感じない殺し……。
やっぱり、私のように芸術性と知性が伴っていなければ駄目だよね。
所詮はただの連続殺人犯に過ぎない。
ただのバカだよね。
そう考えると、クレイジージョーが少し可愛く見えてくるかな。
私の影が薄れてきてはいるけどね。
時代の流れが速くなった分、人の記憶の入れ替えも速くなっているから、仕方の無いことだよね。
時代が勝手に私の記録をクレイジージョーの記録で塗り替えてくれれば、私の未来は安泰だけど……。
平穏って、好きじゃないんだよね。
何かやらかしてないと、落ち着かないと言うか……。
笑いが止まらなくなってきた。
何処かに獲物が転がっていないかな。
私は薄暗い部屋の中で、一人、ナイフを舌舐めずりし、にやにやと笑いながら呟きを続ける。
けど、これ以上独り言を続けていてもね……。
また、妄想が踊り始めてしまっては、厄介だからね。自分自身が止まらなくなり、頭の中が真っ白になって、エスカレートを始めたら、果てが無い。
快楽に底はないからね……。
小刻みに身体を震わせながら、笑みがどうしても毀れてしまう。
クレイジージョー……。
お前は何がやりたいんだ。殺るならしっかりとしたテーマを決めろよ。
言いたいことはそれだけだ。
せいぜい頑張るんだね……。
私としては、お前がどれだけ派手にやらかしても構わない。
ただ、私の領域を侵したら、叩き殺すよ。
お前は私の芸術作品になる価値なんて無いんだから……。
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