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「恋はするものじゃなくて、落ちるものなのよ、八森」
「その感覚がわからないです」
堅苦しい返事に、玲香はつい苦笑いしてしまう。
「今まで好きになった人いないんだっけ?」
「いません。あ、蓮見さんのことは好きですし、信頼も置いてます」
「性的欲求は…ないよね?」
「せ…」
オウム返しにすることすら恥ずかしいのか、栞は口をぱくぱくして赤面した。
「それじゃダメなんだよー」
「だって、蓮見さんは女性ですし、結婚されてますし…」
「そういう前提条件、全部薙ぎ倒しても――さ、好きだと思える。恋に落ちる、ってそういうことだと思うんだよね」
「……」
栞は訳がわからない、という顔をしながらも、真剣な顔で聞いている。
栞は自己肯定感が低い。だが、誰かに愛されて、とろとろに甘やかされれば、自己肯定感も高まって、蕾が花開いたように、凄くいいオンナになると踏んでいるのだが
。
今も、毎朝自分で手作りしてくるという、彩り豊かなお弁当をちまちまと食べている本人以上に――いや、それは流石に言い過ぎか、本人の次くらいには、彼女の運命の人の出現を願う玲香だった。
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