忘れられないバースデー

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「私も史哉くんが好きです。何があっても」 俺もだよ、と言いたげに、鷹野は栞にキスをする。ついばむような軽いキスを何回か重ねてから、鷹野はふと思い立ったように言った。 「うん。そういえば、アレックにバラしちゃったけど良かった?」 「平気、です。これからは史哉くんの彼女だって、胸張れるようにします」 「え、本当? じゃあこれからは社内で…」 「や! あの! あんまりいちゃいちゃしたりは…控えて頂けると…」 つい、鷹野の胸に手を置いて、少し距離を取ろうとしてしまう。でも、鷹野から思いもよらないセリフが降ってきた。 「栞、誕生日おめでとう」 はっとなって顔を上げると、史哉の笑顔が間近にあった。そして、史哉は小さな紙袋を右手に持っていて、それを栞に手渡した。 「俺、栞の誕生日が今日って知らなかったから、さっき土産物屋の売店で、当座凌ぎに買ったもので…、今度、もっとちゃんとしたのプレゼントするけど、やっぱり今日って日に、意味があるものだと思うから…これはこれで受け取って」 鷹野に貰った包みを栞はたどたどしい指先で開ける。全く期待してなかったのに、用意されてるプレゼントも、鷹野の気持ちも、どっちも嬉しい。 開けてみると入っていたのは、ゴールドのチェーンの先端にコバルトブルーの石のペンダントだった。 「いや、これ多分そんな全然いい石じゃないし、安物だけど。栞に似合いそうだなと思って」 「ありがとうございます。――つけていいですか?」 「俺がつけるよ」 鷹野に言われて、栞は背中を向けた。華奢なチェーンが栞の(うなじ)で揺れて、くすぐったい。 「どうですか?」 胸元のトップを触って、鏡を覗き込む。可愛い。 「うん、似合ってるよ」 「ありがとうございます、大切にします」 「いや、安物だから」 「値段の問題じゃないです」 「じゃあ今は、もう少し栞の傍にいてもいい?」 再び背中側から抱きしめられて、鷹野との間に出来た距離は瞬く間にゼロになった。
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