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「……」
無理難題を吹っ掛けられて、栞は固まった。
嘘でしょ?
だが、鷹野はまた眠ってしまって、全く起きそうにない。さっき散々肩をゆすって起きない人が、ちゅーのひとつで起きるものだろうか。
自分からちゅーって、どうやるんだろう…。こわごわと栞は鷹野に顔を近づける。
その瞬間、鷹野の大きな目がぱちりと開いた。
「え~~~~~~~~」
お互い驚いて、大声を出してしまう。栞は慌てて、口元を抑えた。ここは一人部屋なのに、大きな声がしたら、隣室に怪しまれてしまう。
それにしても。
「栞、なんでこんなところ…あ」
鷹野は完全に自分の居場所を忘れていたらしい。
「ごめんごめん、自分の部屋戻ったつもりだった」
笑いながら言って、鷹野は栞の肩を抱き寄せた。そのまま栞の身体は鷹野の上半身に倒れ込むような形になる。
「今、俺に何かしようとしてなかった?」
「史哉くん、寝ぼけ癖あるんですね」
あれも寝ぼけての発言で記憶にさえないなんて、ひどすぎる。
「何でもないです」
「もったいなかったな、俺。あと1秒目が覚めるの遅かったら、栞にキスしてもらえたのに」
「お、憶えてるんですか?」
「いや、夢の中で言ったみたいなあやふやな感じだったから…ねえ」
鷹野が栞の腕を引っ張って、催促する。今、栞が鷹野の上に乗っかっているから、確かに栞からの方が自然だしやりやすいのは確かだが。
「今日だけです…」
そう言って栞は仕切り直して、鷹野の顔に再び近づいた。軽く触れるだけのつもりだったのに、下から鷹野の腕に背中を抱きしめられ、身動きが取れなくなる。
「おはよ、栞」
朝から栞の頬を真っ赤に上気させてから鷹野はすっきりした顔で言う。
栞にとっては心臓に悪い朝だった。
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