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栞が返事をする前に、鷹野はもうぬいぐるみを2体抱えている。
「このワンコ、可愛いっすよね。うちの妹も大好きで。八森さんも好きなの?」
「え、あ…」
「好きじゃなきゃ、こんなオトナ買いしないか」
歩きながら鷹野は一人で喋って、栞に返事をする隙を与えない。
けれど、不思議と不快感も無かったし、何か喋らなきゃという焦りや、強迫感も無かった。
5分程で栞の家の前につく。
「ありがとうございます…うち、ここなので」
「え」
と鷹野は古い門構えの立派な家を見て、驚く。
「すげーお屋敷」
「いえ、古いだけの普通の家です」
「八森さん、お嬢様なんだね。はい、後は一人で大丈夫?」
「はい」
芝わんこのぬいぐるみを鷹野から受け取ろうとする時、栞の脳裏にあるアイデアが閃いた。
「良ければ、なんですが。おひとつ持ち帰られますか?」
「えっ」
妹が好きだと言ってたから、喜ぶかもしれない。そう思っての台詞だったが、さっき、家の前に辿り着いた時よりも、鷹野の目が驚きに大きく見開く。
その表情を見て、栞は即座に発言を後悔した。
余計なこと言わなきゃ良かった…!
「あ、余計なことを申し上げてすみません。両方持って帰りますね。今日は…」
ありがとうございました、と門の中に逃げ込もうとしたのに、栞の右腕の中のぬいぐるみを鷹野はすっと抜き取る。
「貰っていいの?」
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