自分とは真逆の人

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栞は黙ってこくこくと頷いた。 鷹野は満面の笑顔で、つい見惚れてしまい、言葉が出て来なかったのだ。 「でも、タダで貰ったら悪いから、お金払うよ」 「いえ、そんな滅相もない」 「何でよ、だってこれ買うのに、結構投資してるよね」 言いながら鷹野は、スマホを取り出して、何かを調べ始める。 「すげーな、このワンコ、フリマサイトで2400円で売られてるよ。…というわけで、3000円で譲って貰えますか?」 改めて鷹野からのお願いという形にして、鷹野は栞に軽く頭を下げる。 正直、代価を期待しての発言では無かったので、栞としては金額の大小は気にならない。 「あ、じゃあ…はい」 「よっしゃ、取引成立!」 そう言ってスゥエットをまさぐった鷹野だったが、「やべー」と小さく声を立てた。 「俺、今、財布無かった…。コンビニ行くくらいだから、電子マネーでいっかと思って」 あけすけな言い方に、栞の頬が自然と緩んだ。 「ごめん! 明日会社で渡す、ってことたでいい?」 ぬいぐるみを抱いているため、片手だけを顔の前に持ってきて、拝むポーズを作って、鷹野は言う。 「あ、全然大丈夫です」 「じゃあ、明日渡すね! 俺が忘れてたら、声掛けて」 「は、はい」 「じゃあ明日ね」 と、ぬいぐるみを抱く男の後ろ姿が、不似合いで栞にしては、珍しく突っ込んだ質問をしてみる。 「あの…ご自宅はここから近いんですか?」 「いや、自宅はここじゃなくて横浜ー! 知人の家が近くてさ」 少し顔を赤くしながら鷹野は言って、何となく栞にも事情は察せられた。 つまり、日曜の午前中、ラフな格好で、財布も持たずにふらっと出かけられる程、気心の知れた知人宅…それはきっと、昨夜から泊まりで来てる彼女の家なんだろう、と。 ――そりゃ、そうか。皆があんなに騒ぐイケメンだもん。彼女くらいいるよね。 さっきまでの鷹野との会話でのふわふわした楽しい気もちが、急速に萎んで行くのを栞は、感じていた。
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