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好き。は小さな嬉しいの積み重ねby蓮見玲香
翌朝。
いつもの通勤列車から降りた栞は、自分より、少し前を歩く鷹野の姿を見つけた。
スーツ姿で、颯爽とICカードをかざし、自動改札を抜けていく。同じ電車だったのだろうか。
とても追いつけそうにないので、栞はその背中だけを目線で追い続ける。
すると、横からさっと鷹野に並ぶように、歩き始めた女性がいた。
確か鷹野と同じ営業の女性だ。彼女が声をかけると、鷹野も笑みを交わし、そこからがくんも彼の歩みのベースが落ちる。
彼女に合わせているらしい。
おかげで、栞との距離も詰められてしまった。
前方3メートル。
栞は昨日の鷹野の言葉を思い出す。
――忘れてたら。声掛けて。
少し小走りをすれば、すぐに追いついて、話しかけられる距離だ。
だが、昨日はあんなに近く思えた鷹野が、今朝はとても遠く思える。そして、そのことを寂しく思っている自分に気づき、栞ははっとなった。
いやいやいや、昨日たまたま会って話しただけだし。
鷹野は、自分の彼氏でも友人でもない。
同僚と話している間に割って入って、お金を請求するなんて、するべきではないだろう。
そう判断し、鷹野たちを追い抜かないスピードで、歩き続ける。
だが、会社まであと30メートルというところで、何故か鷹野は急にくるりと振り返ったのだ。
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