好き。は小さな嬉しいの積み重ねby蓮見玲香

2/7
前へ
/126ページ
次へ
バッチリ鷹野と目が合い、栞は卒倒しそうになる。 ――な、何で。 しかも昨日と同じ人懐こい笑顔を見せると、あろうことか鷹野は、並んで歩いていた女性に、「ちょっとごめんね」と、断りを入れてから、栞の方に真っ直ぐに歩いてきた。 「おはよう、八森さん」 「お、おはようございます…」 栞もなんとか挨拶はかわしたが、内心ドキドキヒヤヒヤものだった。 鷹野は背中を向けているから気づかないかもしれないが、並んで歩いていた女性は、栞を見ている。全く敵意を隠さない目で。 あ、挨拶だけで結構ですからー。 という栞の心の声は、鷹野には全く届いていないようで、鷹野はスーツの胸ポケットから、小さな袋を取り出す。 「昨日、ありがとう。これ、昨日のワンコ代」 てっきり、財布から無造作に抜き取られ、裸で渡されると思ったお金は、手のひらサイズの可愛らしい小袋に入れられて、栞の手に渡された。 わざわざ用意しておいてくれたのか。その気遣いが嬉しい。営業さんて、やっぱり心配りが違う。 肩越しに見える女性からのガン付けなど、もう何も気にならないくらい、栞は感動していた。 「あ、ありがとうございます」 「何でありがとうよ? お礼言うの俺でしょ」 そんなことはない! 声を大にして、今の気持ちを伝えたいのには、口下手な栞には、うまく表現出来ない。 「妹、すごい喜んでた。一発で当てたの?って言われたから、同僚に貰った…って、ネタバラシしちゃった」 「よ、喜んで頂けて、こちらも光栄です」 「じゃあ、八森さん、またね」 恐らく時間にしたら、ほんの30秒程度。 しかし、鷹野とのやりとりは、栞の心に、優しくあたたかな光を差し込んだ。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1824人が本棚に入れています
本棚に追加