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恋愛が苦手です
恋をして、愛し愛されて、結婚したい――
おとぎ話や少女漫画では、定番のラストが、こんなに難しいとは、思わなかった。
お見合いは10回目だけど、コース料理を食べながら、アニメの話をされたのは始めてだな。
滔滔と熱弁を振るう男を、栞はぼんやりと眺めた。なんせ、今期のアニメについて語られても、ちんぷんかんぷんだ。
写真よりも老けて見える。確か釣り書きには、35とあったはずだが、40と言われても、信じてしまいそうだ。
着ているものの趣味は悪くない。会話の内容は栞には興味のないものだが、テーブルマナーはきちんとしている。
(この人と恋をしたり、家庭を築いたり…出来るのかな)
「僕は二ツ森派なんですよ。何と言っても、少し低めの知的な声がいい。そういえば八森さんとも、名前が似てますね」
何だかわからない話を延々とされた挙句、唐突に自分の名を引き合いに出され、八森栞は、「え?」と思わず、聞き返してしまった。
意味がわからない。
そんな思いが、表情にも声にも表れていたのだろう。
それまで饒舌に推しの声優について語っていた男が、急速に言葉数が少なくなり、勢いもなくなる。
「あ、すみません。つまらない話をべらべらと。鬱陶しかったですよね」
「いえ、そんなことは」
けれど栞の台詞に、今のこの気まずくなった空気を立て直す力はなかった。何せ、めちゃくちゃ事務的な言い方だったのだ。
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