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「と、私のお婆さんが話してたからねぇ。小春もあの池にはあまり近づくんじゃあないよ。」
それを語るのが私の曾祖母だ。結構な高齢でなんと大正の生まれだとか。
私、百瀬小春は近所に住む曽祖母の元を訪れる度に高校生になってもこの話を聞かされることにそろそろうんざりしてきた頃である。
「ひい婆ちゃん、私ちょっと近くの売店まで買物に行ってくるね。早く行かないと閉まっちゃう。」
そう言って私はひい婆ちゃんの話を切り上げた。少し申し訳ない気持ちもあるが話し始めてもうすぐ1時間、限界である。
「そうだねぇ、あそこは店仕舞いが早いからねぇ。気をつけてね」
「うん!いってきまーす!」
小春は急ぎ足で家を出ると自転車にまたがり、ひぐらしが鳴き始める夕方の少し涼しい風を切りながら家の前の坂道を下っていった。
その姿を見送りに曽祖母が家から出てきたが、その頃には既に小春の姿は見えなくなっていた。そして何かを思い出したかのように曽祖母が呟いた。
「視えるが故に、語り継ぐのも役目というものなんだがねぇ…」
このとき、私は自分の家柄を知る余地もなかった。むしろ知ろうともしなかった。
もし、知っていれば─
ああなることにはならなかっただろう。
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