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小春は恐怖心から勢いのままに自転車を置き、玄関からではなく庭に面する縁側から家の中に転がり込んだ。 「ひい婆ちゃん!!」 つう、と汗が小春の頬を伝う。縁側で涼をとっていた曽祖母は目を丸くして顔面蒼白な小春の元へ駆け寄った。 「小春、どうしたんだい?」 「え、と……売店に向かう途中にある公園の前で…こ、声が聞こえたの…」 「声…?どんな声だい?」 曽祖母は不信感を抱きつつも、小春を落ち着かせようとそっと肩に手を置いた。 「低くて澄んだ声で…」 「うん」 「確かにこう言ったの。汝は百瀬家の者か、って」 「うん」 「それで怖くなって売店にも行かずに帰ってきて……」 落ち着きを取り戻した小春の顔を一瞥し、曽祖母は目を伏せて何かを悟ったような表情で静かに語り始めた。 「お不知池。あの池はお不知池。私がいつも話す話に出てくる"あの池"の名前。もうひとつの公園にある池はお不知池に見せかけたただの人工池。小春、よく聞きなさい。大切なことだ。お前が聞いた声はあの話に出てくる"龍神様"の声だ。」 「え…?」 「龍神様の声が聞こえるのはウチの一族、池へ行って行方不明になった村娘と貴族さのお嬢さんの血族である百瀬家だけなんだよ。はて、ご先祖様が何か罰当たりなことをしたのか"龍神様"の声が聞こえてしまった者は…」 小春は拳をギュッと握りしめ固唾を飲んだ。その拳はカタカタと震えている。声が聞こえた者はどうなるのか不安でたまらない。 「声が聞こえてしまった者は─」
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