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十年後
「お父さんとお母さんは、どうやって出会ったの?」
ぼくは父に尋ねる。
テーブルの向かいに座る父は、少し目を見開き、口を変な形に曲げた。
そして後ろを振り返り、台所で食器を洗っている母の方を見てから、またこちらを向いた。
「どうしたんだ、いきなり」
「今日、学校で友達とそういう話になった」
ぼくたちは、母親のお腹の中から生まれてくる。当然、生まれてくる以前の出来事は何も知らないままに。その事実を思い出すたびにいつも、大人はずるい、とそう感じるのだ。
だからせめて、自分を生まれさせてくれた両親の馴れ初めくらいは知っておいてもいいだろう、と思った。
「最近の小学生は、ませてるな」父は小馬鹿にしたようにそう返す。
「いつの世もそうだよ」と答える。
「偉そうなことを言う」父が笑う。
「いいから、早く教えて!」
「分かったよ……。父さんと母さんは、同じ大学に通ってたんだ」
大学生と言えば、二十歳くらいであろうか。そのくらいの年頃の両親の姿を想像しようとするが、難しかった。
「大学で……」
「でも、学校では全然、出会うことがなかったんだ」
「そうなんだ。じゃあ、どうやって出会ったの?」
「父さんと母さんはな、なんと偶然にも、同じアパートの隣同士の部屋に住んでいたんだよ」
父は得意げにそう言った。
「すごい! 運命だね」
「まあ、そういう言い方もできるかもな」しみじみと父が呟く。
「じゃあ、ぼくがこうして生きているのは、その偶然のおかげなんだ」
この世界は、ぼくには想像もつかないようなくらい沢山の、小さな奇跡が降り積もって、できているのかもしれない。
そう考えると何故だか、わくわくする。
「何? 二人で何の話してたの?」
皿洗いを終えた母が、こちらへ歩いてきて、にこにこ笑いながら尋ねる。
「「内緒」」ぼくと父が同時にそう答える。
「なんでよ!」母が頬を膨らませて、僕たちは笑う。
「まあ、とにかく。父さんも母さんもお前も、神様に感謝しなきゃな」と父が言った。
ぼくたち三人は、顔を見合わせて、一緒に微笑んだ。
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