彼女の魔術

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  雨に濡れる赤レンガで組み上げられた商店が立ち並ぶ街の中、フードを被った小柄な何者かは小走りに周りを気にしながら傘も差さずに人混みを駆け抜ける。  やがて人目を避ける様に、足はレンガで出来た家同士の隙間の狭い道へと進む。 「はぁはぁ、、、、、、もっと遠くへ」  まだ幼さの残る女性の声で自分自身にそう言い聞かせながら、膝は既にわらっており、いつ倒れてもおかしくは無かった。  辺りを見回しても誰も追っ手は無い事を確認するも、緊張が解けなかったのか路地裏の中で外を伺いながらようやく腰を下ろした。  フードを取り雨に濡れたので水滴を払うと、フード下の端正な顔立ちが露わになった。そばかす交じりの顔は何処か不安げである。  クレープ色の髪は後ろ手に結わえられ、水色の瞳で衣服のポケットをまさぐっていた。  暖かそうな皮で出来たズボンのポケットから取り出したのは、一本のペンであった。身なりには不釣り合いなそれは金で出来ており、散りばめられていた装飾は全てダイヤモンドである。 「ねぇ、これからどうしたらいいの?お婆ちゃん」
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