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とある高校の休み時間、3年生の灰原巴恵は陰鬱な気分で窓の外を眺めている。その先にいるのは、後輩のカグツチ。彼は楽しそうに友達と雑談している。
「カグっちゃん、やたら楽しそうだな……」
小突き合いながら笑うカグツチを、巴恵は複雑な気持ちで見る。
「あ……」
カグツチの左耳にピアスがついている。最近開けたと聞いていたのでついていてもおかしくはないが、問題はピアスそのものだ。
「なんだよ、友達とわけっこでつけやがって……」
先程からカグツチと話している友達の右耳には、カグツチと同じものがついている。
巴恵がため息をつくと予鈴が鳴り、カグツチ達は慌てた様子で校内にはいる。
巴恵とカグツチが知り合ったきっかけはTwitter。巴恵が近所に同じゲームが好きな人がいないかとTwitterで探し、見つけたのがカグツチ。ふたりはすぐに意気投合し、互いの家でゲームをするような仲になった。ちなみにカグツチが巴恵と同じ学校にいるのは、カグツチが追いかけるように入学したからだ。
この日巴恵は、つまらない気持ちで放課後まで過ごした。
放課後になると帰宅部の巴恵は、真っ直ぐ下駄箱へ行く。
「灰原先輩」
わざとらしい声に顔を上げれば、何か企んでいそうな笑顔のカグツチがいる。
「カグっちゃん、どうした?」
巴恵は平静を装いながら靴を履く。
「一緒に帰ろ。てかさ、今日泊まりに来なよ。どうせ明日予定ないでしょ? ゲームしよ」
「お、いいね」
内心気は進まないが、断ると不自然に思われると思った巴恵は快諾し、カグツチと並んで歩く。
「昨日の夜カレー作りすぎちゃったからさ、一緒に消費して」
「またカレー? カグっちゃんのカレー美味しいからいいけど」
カグツチは諸事情でひとり暮らしをしている。だからこそこうして、巴恵を気軽に呼べるのだ。
カグツチのアパートにつくと、ふたりはさっそくゲームを始める。カグツチは熱中しているが、巴恵は彼の左耳に光るピアスが気になってゲームに集中出来なかった。
「ふぅ、腹減ったー。もう7時半じゃん! 巴恵ちゃん、ご飯にしよっか」
「うん」
「じゃああっためますか。巴恵ちゃん、近くのコンビニでメンチでも買ってきて。ちょっと贅沢しようよ」
カグツチは財布から150円出すと、巴恵に渡した。
「オッケー、買ってくるわ」
巴恵はカグツチからお金を受け取ると、近くのコンビニに向かった。
メンチを2枚とアイスを2つ買って帰ると、食欲をそそる匂いがした。
「お、巴恵ちゃんナイスタイミング!」
ワイシャツにエプロンのカグツチは、お玉を片手に持ち、もう片手を巴恵に伸ばした。
「はい、メンチ。アイス買ったから食後に食べよ」
「やったね、さすが巴恵ちゃん!」
カグツチは花がほころぶような笑顔を見せる。巴恵は思わず目を逸らした。
「巴恵ちゃん? どうかした?」
カグツチは可愛らしく首を傾げ、巴恵の顔を覗き込もうとする。
「いや、なんでもないよ。向こうで待ってるわ」
巴恵は誤魔化すように早口でいうと、テーブルの定位置に座った。
それからふたりは雑談を混じえながら夕飯とアイスを堪能した。
「先に風呂入るね」
食器洗いを終えたカグツチは、ワイシャツのボタンを外しながら言う。ほとんど陽の光を浴びない白い肌に、巴恵は小さく息を呑む。
「……普通客を先に入れるんじゃないの?」
巴恵は悟られまいと、わざと笑いながら言った。
「いや、巴恵ちゃんだし。それじゃ、行ってくるわ」
カグツチは片手を振って風呂場へ行ってしまった。
「はぁ、カグっちゃん男だぞ? 何考えてるんだ、俺は……」
ひとりになった巴恵はテーブルに突っ伏し、大きなため息をついた。
自分の感情に戸惑いながらカグツチを待つ。彼はすぐに戻ってきた。
「おまたせー」
白い半袖シャツに黒短パンのカグツチに、巴恵は更に困惑する。衣類から伸びた白い四肢、ほんのり染った頬、髪から滴る水滴……。どれもが巴恵の理性を崩そうとしている。
「俺も入ってくる」
巴恵はカグツチから目を逸らし、彼の隣を横切る。
「巴恵ちゃんってば、かーわいんだから」
ひとりになったカグツチは小声で言うと、ニヤリと笑った。
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