七色のビー玉。

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

七色のビー玉。

カラフルなネオンがうるさいパーティー会場。 あの子は、どこにいるのだろうか。 突然、 「レディースアンドジェントルメン!みなさん、今宵のパーティーは楽しんでいただけていますか?」 スーツを着て蝶ネクタイをつけた、いかにもな司会者が言う。 「ここで皆さんお待ちかねの抽選会!」 盛り上がる会場。抽選会?こんなパーティーで、一体何が当たるというのだろう。 「皆様1人ずつに事前に選んで頂いたビー玉。それが抽選券となります!」 僕は周りを見渡す。ほとんどが透明なビー玉だが、赤や黄色、ピンク、水色のものもある。 「虹の七色のビー玉を持っている方が当たりです!」 皆がざわつく。僕は自分のものを見る。一瞬、ネオンで青く光っているように見えたが、よく見ると透明である。ハズレだ。 違う。こんなことをしている場合じゃない。早く、あの子を見つけないと。 「やったぁぁぁ!!!!」 血眼になって彼女を探す僕の近くで、歓声が上がった。どうやら、七色のビー玉のうち、黄色のそれを当てたらしい。 「おやおやこれは、おめでとうございます!黄色の玉と引き換えられるのは、【ありったけのお金】です。あなたにぴったりですね?」 「あぁ、やっと…。やっと、この借金地獄から抜け出せる!!嫁や子供たちにも伝えてやらなくちゃ…!」 そう言って、彼は帰っていった。 続いて藍色、オレンジ色と、次々に引き当てられていく。 賞品を手にした人達は、それまで失っていた 笑顔を取り戻し、帰っていく。 「おめでとうございます。赤い玉は【大切な人】です。よかったですね。」 司会者がそう言うと、30代くらいの女の人が、ふっとそこに現れた。 「お前、本当に…、本当にお前なのか!?」 「あなた…?ここは、どこなの…?早く帰りましょうよ。」 「うぅ…っ。また会えるなんて…。」 「何言ってるのよ。私はずーっと、あなたのそばにいるわ。」 泣きながら彼は、いや、彼らは帰っていった。 「紫色の玉は、【何でもできる能力】ですね。おや、いらっしゃいませんね。手に入れてすぐ帰ってしまわれたんでしょうか…。」 奇妙な男が笑みを浮かべ、帰っていった。 探しても探しても見つからない。 あの子は、あの子はどこにいったんだ。 きっとここに来ているはずなのに。 「おぉっと!!ここで1番の大当たり、緑の玉が出ましたね!」 空気が、変わった。 「いいなー!」 「あーあ。俺もあれが欲しかったのに。」 「あんな若い子が当てるなんて…。あたしに譲ってほしいわ。」 皆が羨望の眼差しを向ける。 その先にいたのは…。 「ッッ!」 思わず、声にならない声が出る。 あの子だ。間違いない。忘れるはずがない。 ずっとずっと会いたかったんだ。 やっと見つけた彼女の元へ、走る。 「いやぁ、皆さん羨ましがられてますね。どうです?今の気分は。」 「まさか本当に当てられるなんて、とても嬉しいです。ここに来た甲斐がありました。」 やわらかく微笑む、あの子の横顔が見える。 あと少し、あと少しで届く。 我慢できずに、叫ぶ。 「なぁっっ!君だろ…!僕のこと、覚えて」 「はーい!皆さんお分かりのとおり、緑の玉の賞品は…」 僕の声は、司会者に遮られた。 でもきっと、聞こえたのだろう。君がこっちに振り向いて 「【安らかな死】です。本当におめでとうございました♪」 笑って、消えた。 僕の足元に、青いビー玉が転がった。 今度はネオンのせいじゃない。本当に青色だ。 「最後のビー玉ですね。おめでとうございます。青色の玉は【美しい思い出】です。今消えた『誰か』のものかもしれませんね?」 それを拾うと、あの子の記憶が流れてきた。 そこには、君と幸せそうに笑う、僕がいた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!