フライデー1500

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フライデー1500

コチ…コチ…コチ…コチ… キーンコーンカーンコーン…。 学校ではない…会社である。 決まって月の最終金曜日の午後3時にはこのチャイムが鳴り響く…。 私にとっては、かなりの煩わしさである。 15:00 きっかりに鳴るその音は、至福の飲んだくれタイム…『プレミアムフライデー』へと繋がっていく…。 あらゆる労働者が、身支度を整え、娯楽世界へと繰り出して行く…。 その光景を第3者の立場で幾度となく見てきた。 世間一般的に、給料日が25日であるわけなので、給料のご入金たんまり状態で、その日は過ごせるわけである。…きっちりお小遣い制 既婚者は蚊帳の外ではあるが…。 働き詰めのサラリーマンに、給料日ぐらいは早めに帰宅しての家族サービスを…なんて狙いもあるかな…。 平日商売業への売上増を促進するための施策…別段、各企業への法的拘束力はないが、当社では、プレミアムフライデーを上手いこと時間外労働削減とストレス発散の場として活用している。 「言葉ができた始めのうちは、お店もみーんな協力して頑張っていたよなぁ…。」 『フライデー1500』 当社ではその呼称を使っている。 『ふらいでーいちごーまるまる』 今にも、アルコール注入痛風我慢大会でも始まりそうな勢いである。 「ちょっといいかな…?」 二次サイレン?を告げる、上司の声が私の背中に突き刺さる。 反射的に… 「はい!なんでしょうか?」 と私は答える。 「毎度、すまんな…。君がいてくれて、本当に助かるよ…。ありがとう。」 ドササッ… 我がデスクは山積みの書類に囲まれた。 …コチ…コチ…コチ…コチ… キーンコーンカーンコーン…。 チャイムは鳴ってはいない…。私自身の頭の中にある妄想体内時計である。 時刻は18:30を告げる。通常業務の定刻終了時間である。 「さてっと…!」 私は大きく背伸びをし、誰もいないオフィスを見渡し、出入口のドアへと向かう。 カタン…ピッ!! タイムカードの打刻が終了。 自分のデスクへと戻る…。 私はパソコンのイヤホンジャックから端子をおもむろに抜き取り、オーディオ音量を気分よく上げる。 「では、スタート!」 ズンチャカ…ズンチャカ… 陽気な音楽がかなり大きい音量で、流れ始める。そのリズムに合わせ、私は体を小刻みに揺らしながら、不器用に踊る。 『バブリカ』 『妄想オリンピック2020』 非常識応援テーマソング ♪バブリカ~お口あけたら~やさしくママも~ 口ひらく~ バブリカ~涙こぼしたなら~ミルクの香りが~鼻をくすぐる~♪ 私は親指を咥えながら、目を瞑り、その曲に合わせて豪快なダンスを気の済むまで踊り続ける。 私にとっての 『フライデー1500』 慣れてしまえば、至福の金曜日である。 零細企業は週末に仕事が溜まる…誰かがやらねばならぬ…しかし、引き返せないお仕事改革にならった社内イベント…。『プレミアムフライデー』は『ブラックフライデー』に様変わりしていく…止まらない現実…。 仕事もろくにせず、上司のご機嫌を伺うだけの鬱陶しい同僚たち…。 いつからだろうか… この月一回の誰もいない職場環境が私を強くし、ストレスを溜めさせることなく、日々の集中力を研ぎ澄ませていった…。 今では、この日が待ち遠しい…。 うっすらと開いたドアの隙間から上司は覗いていた…。 「そっとしておこう…。」 【完】
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