闇が生む朝と望まぬ夜明け

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闇が生む朝と望まぬ夜明け

 助手席に座り空を見上げれば、沈み行く夕陽の後を追うように心が下へと向かっていく。ずくずくと胸が痛み言い様のない焦りや不安が黒い靄となって心臓を覆い、やがて粒子が纏まり蔓のように変化する。先端が延びゆっくりと背後から体へ絡み付きシートへ私を縛り付けた。街灯の橙が濃紺との鬱々しいコントラストを描き瞳から脳を掻き乱す。 夢を見た。母親を罵倒しながら殴り付ける夢を。 傷が痛む。記憶にもない古傷は膿み続けて。 目眩の中、助けの求め方を手探りした。 消えて楽になりたい。 この痛みも不安も悲しみもすべて捨ててしまって、海の底に溶けてしまいたい。 幾度も海原に沈む想像をした。  冷たい群青に流されて緩やかに下降していく白い肢体を何度脳裏に描いたことか。波の動きに合わせて髪が揺れる。ゆらゆら、ゆらゆら、指先が漂う。  気が付けば涙が溢れていた。 背中から延びた黒い蔦は心臓に巻き付き、キツく締め上げ鼓動が鳴る度に涙腺から涙を押し上げる。指がじわりと痛み感覚は消え、厭な汗が滲む。 私が死んでいく。 私の光が夕闇に奪われていく。 それは悲しみだけを残して辺りは一気に暗くなる。 そんな私を労ることもなく車は自宅へと向かい、一日の全てが終わり、また孤独な一人の時間がやって来る。目前へ迫る恐怖に負ける。  深夜、奥歯を噛んで車を降り、重い足を引きずって暗闇の満ちた部屋へと戻った。ベッドが軋む。身体が軋む。心が軋む。ギシリと、ギリギリと、鈍く痛む身体を飲み込むようにマットは身体の重みを受け入れた。 戦うことに疲れた私は孤独と向き合う時間から逃れるように、赤や青、黄色や甘い白の錠剤を口に含み飲み下す。舌の上で転がした薬は唾液と混ざりあっという間に口内で溶け甘味だけを残していく。 憂鬱な感情はもう手に負えず、 明日が来なければ良いと望みながら目蓋を閉じ  私は黒い痛みに囚われたまま一日を終える。 午前3時。今日も一日数え切ることが出来た。 明日はイイコトがありますように。
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